石原慎太郎元都知事は、駅ナカの税制優遇を批判した
山形ジェイアール直行特急保有株式会社は、山形県や山形市といった自治体、JR東日本が株主に名前を連ねる第3セクターとして1988(昭和63)年に設立された。同社は初代山形新幹線400系や鉄道施設の保有し、それらをJR東日本に貸し付けていた。阪急同様に、すこしでも鉄道運行による会社の負担を減らそうとするのが同社の狙いだ。
タックスヘイブンを利用してまで節税対策に努めるのは、鉄道事業は経費が膨大にかかるからだ。鉄道車両だけに着目しても、購入と維持に莫大な費用がかかる。
車両の価格はピンキリで、1両あたりの価格は新幹線で1~3億円、在来線の場合は山手線で約1億円程度。山手線は11両編成なので、走っている山手線1本あたり約11億円になる。その車両を維持する費用も忘れてはならない。JR東日本を例にとると、車両の保守点検費用は毎年1000億円。そして導入と維持だけでなく、運行している限り、車両には固定資産税もかかる。
ほかにも線路や駅、架線といった施設の建設費や維持費も馬鹿にならない。線路のメンテナンスにJR東日本は毎年2000億円、架線は1000億円かけている。他の私鉄や地方のローカル線も、規模が異なるものの同じように費用をかけている。そして、国民の足としての公的使命がある鉄道は、経費が圧迫して採算をとるのが難しくても、簡単に撤退や廃業することができない。鉄道が”金を失う道”と呼ばれる所以は、ここにある。
鉄道経営の苦しい面ばかりを挙げたが、一方で、政府や地方自治体は鉄道会社に資金面・税金面でさまざまな優遇措置を設けている。たとえば、鉄道施設は固定資産税が3分の1に減免されている。これまで述べたような経済的苦境という背景があっての減免なのだが、2006(平成18)年に石原慎太郎東京都知事(当時)は「鉄道駅が税法上で特別扱いを受けるのはおかしい」と異議を唱えた。
石原都知事が異議を唱えた理由は、東京圏や大阪圏などを地盤にする鉄道会社が利用者の多い駅に商業施設を次々にオープンさせて”荒稼ぎ”していることだった。石原都知事は、「駅ナカが行き過ぎるなら、一般の店舗と同様に課税する」ことを示唆した。
しかし実際には、ほとんどの鉄道会社は「稼ぐ」ことができずにいる。輸送人員の少ないローカル線で大規模な商業施設の展開は不可能だし、鉄道施設にかかる固定資産税やメンテナンスの保守費用が経営を圧迫している。そのため、かつての阪急のようにタックヘイブンの会社に車両を保有させる、というような裏技も出現した。
経営に苦労している鉄道会社に対し、行政も無策ではない。国土交通省は、「地方自治体が線路や鉄道施設を保有し鉄道会社は運行に専念するという上下分離を地方の鉄道会社に推奨している」という。上下分離を導入すれば、線路や駅、鉄道施設などへの固定資産税はなくなり、保守管理の費用も必要ない。
鉄道会社の涙ぐましい節税対策を租税回避と批判することは簡単だ。しかし民間企業なら利益を拡大することが当たり前とされながらも、鉄道会社は社会的使命から赤字路線でも簡単には廃止にできない。鉄道会社はそんなジレンマに悩みながら、利用者第一の精神を掲げる。鉄道を次世代に残すために、その方法を模索する局面に来ている。