背景には今回の人事に絡んでの官邸の思惑がある。日銀政策委員会の内部は、微妙な勢力バランスにある。黒田総裁が2月の金融政策決定会合でマイナス金利を導入した際、9人のメンバーのうち4人が反対だった。その後、3月末で反対派の審議委員(白井さゆり氏)が任期を迎えた。
任命権を持つ安倍内閣としては、後任に安倍―黒田ラインの経済政策を支持する人物の起用を考えるのは自然な流れだ。そんな状況の中で、任命されたのが櫻井氏だった。
櫻井氏を説明する数少ない情報として、〈(安倍首相の経済ブレーンの)浜田宏一内閣官房参与と共著で国際金融に関する論文を主要学会誌で発表したことがある〉(毎日新聞、3月5日付)といったアベノミクス推進派との交流が挙げられ、「安倍側近の山本幸三・自民党代議士にも近い。官邸と黒田総裁は自分たちのパペットとなる実績が少ない人物を選んだのでは」(エコノミスト)と見られている。
だとすれば、疑惑の経歴は、櫻井氏本人というより、政府が無名の人物をいかにも“大物”に見せようとして生まれたのではないか。日銀審議委員が経歴や論文への疑問に自ら答えることもできない異常事態は、一体誰が招いたものなのか。
※週刊ポスト2016年5月20日号