ライフ

伊藤若冲の「桝目描き」 江戸時代のデジタル画と評される

鳥獣花木図屏風(エツコ&ジョー・プライスコレクション)

「ナマの日本美術を観に行こう」と始まった大人の修学旅行シリーズ。今回は、前回に続き天才絵師・伊藤若冲の回顧展(生誕300年記念「若冲展」)。日本美術応援団長・山下裕二氏(明治学院大学教授。美術史家)を引率に、書家の木下真理子氏が、若冲が描き上げた世界観に誘う──。

山下:江戸時代、円山応挙らと並んで京都画壇きっての人気絵師だった伊藤若冲ですが、明治以降、日本では正当に評価されずにいました。むしろ、海外での評価の方が高く、多くの作品が海を渡って行きました。

木下:私が若冲を知ったのは、2006年に東京国立博物館で開催された『プライスコレクション「若冲と江戸絵画」』展がきっかけでした。米国人コレクターのジョー・プライスさんは、戦後いち早く若冲に注目されていたのですね。

山下:1953年にニューヨークの日本美術店で『葡萄図』にひと目惚れして購入しました。以来、若冲を始め、江戸絵画を熱心に収集されています。大作『鳥獣花木図屏風』は、プライスコレクションの中でも象徴的な作品です。白象と鳳凰を中心に、たくさんの動物や鳥がユーモラスに、色鮮やかに描かれています。実はプライスさんのロスのご自宅の浴室は、タイルがこの絵と同じ柄なんですよ。

木下:「草木国土悉皆成仏」という、あらゆるものが成仏できるという考え方が、鮮やかな色彩で描かれていますよね。モザイク画のような技法も日本画では斬新です。

山下:「枡目描き」という若冲オリジナルの技法です。8万4000もの枡目で方眼が描かれ、“江戸時代のデジタル画”ともいわれています。約1cm四方と精密な枡目の色を塗り分けて、模様も描き分けている。まだまだ研究の余地がある、大変興味深い作品です。

木下:若冲は水墨画も手掛けていますが、迷いのない筆勢とともに、水墨画にも緻密さが表われています。

◆山下裕二(やました・ゆうじ):1958年生まれ。明治学院大学教授。美術史家。『日本美術全集』(全20巻・小学館刊)の監修を務める。日本美術応援団長。銀座・ヴァニラ画廊で開催中の『人造乙女美術館』の監修も務めた。

◆木下真理子(きのした・まりこ):書家。雅号は秀翠(しゅうすい)。大東文化大学で高木聖雨氏に師事。中国、日本古来の伝統芸術としての書を探求。映画『利休にたずねよ』やNHK『にっぽんプレミアム』に関わる題字なども手掛けている。木下真理子公式サイトhttp://kinoshitamariko.com/blog/

【生誕300年記念「若冲展」】
伊藤若冲の初期から晩年までの代表作89点を展示。若冲が京都・相国寺に寄進した『釈迦三尊像』3幅と『動植綵絵』30幅が東京で一堂に会すのは初めて。東京・上野の東京都美術館で5月24日まで開催。

撮影■太田真三 構成■渡部美也

※週刊ポスト2016年5月27日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
《ママとパパはあなたを支える…》前田健太投手、別々で暮らす元女子アナ妻は夫の地元で地上120メートルの絶景バックに「ラグジュアリーな誕生日会の夜」
NEWSポストセブン
グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン