ユーザーを欺く燃費の誇大表示は是正されるか


 信頼回復の方法は、実際に公の場でテストをすること。それだけだ。筆者がこう考える理由のひとつは、これまで三菱自のクルマで実際に長距離試乗を行った経験に照らし合わせて、三菱自だけがJC08モードに対して燃費が悪いという印象がないためだ。

 昨年秋、中型クロスオーバーSUV「アウトランダー」のガソリンAWD(4輪駆動)モデルで東京~山梨~静岡~神奈川~東京と500kmほど走ってみたが、その時の燃費はJC08モード値14.6km/Lに対して平均燃費計で14.4km/L、満タン法の実測値で14.2km/Lだった。

 都市走行3割、郊外走行7割で燃費的にはそれほど辛い状況ではなかったとはいえ、直噴でもない普通の2.4リットルエンジンを搭載するAWD車としてはむしろ健闘しているという印象すらあった。同様にコンパクトカー「ミラージュ」、コンパクトSUV「RVR」の実燃費も決して悪いものではなかった。

 走行抵抗値自体が改ざんされたという「ekワゴン」、日産「デイズ」など軽自動車を長距離で試していなかったことが残念だが、少なくとも他のクルマについては燃費スコアを見る限り、他社と似たり寄ったり。言い換えれば、三菱自やスズキは法令に違反していたが、燃費値取得にまつわるモラルについては他社も似たり寄ったりだということだ。

 他のメーカーは「我々は法令を順守している」と言うが、燃費審査に関する法令は抜け道だらけ。

「正直、法令に違反しないギリギリのところで燃費審査値をどのくらい良く出来るかというノウハウはメーカーそれぞれが独自のものを持っています。

 一方で、JC08モードに規定された加減速や停止をオンロードで再現させた場合、プロフェッショナルでもモード燃費通りの数値を出せるということはないと思う。その意味では脱法と言われても仕方がない」

 あるメーカーのエンジニアは、燃費に関する実情をこう語った。少し昔の話になるが、大手石油元売りのエンジニアがモード燃費と実走行がなぜこれだけかけ離れるのか研究していたところ、モード測定条件である気温20度を中心としたごく狭い範囲だけ、異常に燃料噴射量が少なくなるようプログラミングされたモデルが結構あったと言っていたことがあった。

 解釈によってはディフィートデバイス(※VWで排ガス不正に使われた「無効化装置」)と言われる可能性すらあるマップだが、当時は何も言われなかったという。これは三菱自以外のメーカーの話だ。

 JC08モード燃費とはそもそもどのような加減速なのか。その走行パターンは国交省が公表しているが、その走りは壮絶にまろやか。平均車速24.4km/hは、混雑気味の都市部を走るのと同等。高速道路を念頭に置いた部分の最高速度80km/h強を含めた数値なので、都市走行想定ではもっと低い。

 本来なら燃費良く走れたものではない速度域なのだが、それを緩和するのが異様に低い加速度。大半の加速は0.1G前後。重力加速度1G、9.8m/sの10分の1に相当する0.98m/sが1秒ごとに積み重なっていくというイメージだ。それを10秒続ければ速度が9.8m/sになる。時速に直せば35.2km/hだ。

 信号が変わってから10秒かかってそんな速度にしかならないという運転を路上でしたとすれば、それはもはや通行妨害に等しい。しかもエアコンや電装品などはすべてOFF。そんな方法で排出ガスと燃費を測っているのである。その数値が実際の燃費に近づくわけがないのだ。

 いろいろなクルマをオンロードで走らせていると、省燃費走行を行わなくても時折JC08モードと同じ、もしくはより良い燃費を記録できる場合がある。筆者の経験ではスバル「BRZ」のMTがモード燃費地13km/Lに対して15.2km/L、ホンダ「フィットRS」のMTが同19.0→20.0km/L、フォルクスワーゲン「ポロGTI」のMTが同17.2→17.6km/L、BMW「320d M Sport」の8速ATが19.4→19.4km/L……などがある。

 だが、それをもってJC08モードをちゃんと達成したことにはならない。

 加速度はモード測定を大幅に上回るが、いずれも長距離試乗で運転条件はモード測定よりはるかに燃費に好都合。また、ディーゼルのBMWを除けば、全部MT。MTの場合、モード測定では速度だけでなくシフトアップ、ダウンの回転数まで細かく決められており、ものすごくゆるやかな加速を結構な回転数まで引っ張って行うことになるため、燃費審査値が低くなる。相対的に実燃費が有利になるのだ。

 ガソリンエンジンのCVT、AT車やハイブリッドでも、区間を切ってエコランに血道を上げればJC08超えを達成できる場合もあるが、それには多大なストレスが伴ううえ、JC08モード走行より発進・停止が格段に少ないことが必須条件だ。こうしてみると、いかにモード燃費が参考にならないものであるかがあらためて浮き彫りになるというものだろう。

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