「四時間を超える大芝居で、私も休む暇もない。のりちゃんの紙芝居が出る時、私は、
『おい、すまんが少し引っ張って(延ばして)くれ』
心得た彼は、♪みどりの丘のォ──と下手くそな歌を唄いながら出ていった。
そこへ出る私の孫娘役と、彼女の恋人役の二人は、何を言われるかと、毎日ヒヤヒヤしていたという。
『ぼく、次郎ボンです』
『ヒロポンはいけません。国を滅ぼす悪魔です』
『いえ、次郎ボンです』
『そんな怪しげな男は警察へ行ってもらいます。あそこは飯がタダなので私も行きます』
そこから、すべったりころんだり、といろんな芸を見せて、客を抱腹絶倒、感激の極みに追い込んだ」
一流の役者には一流の言葉がある。改めて思い知らされる。
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』(文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』『市川崑と「犬神家の一族」』(ともに新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2016年6月24日号