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2016.06.17 16:00  週刊ポスト

森繁久彌 名優であるだけでなく一流の芸談語りだった

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。いつもは名優たちへのインタビューから言葉を届けている連載だが、今回は、半世紀以上にわたって映画、演劇、ドラマなどで活躍した故・森繁久彌が遺した文章から、名優ならではの言葉をお届けする。

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 森繁久彌は名優であるだけでなく、一流の芸談語りだった。彼自身の演技論も出色であったが、他の役者に対する観察眼と描写力もまた見事なものである。名優だからこその目のつけどころと、それを巧みに文章化する技術に驚かされてしまう。

 たとえば、1960年代の東宝の大ヒット映画「社長シリーズ」で森繁の部下役を演じてきた名優・小林桂樹について。エッセイ集『あの日あの夜 森繁交友録』(中公文庫)で、「彼の芸風は、ブキッチョを上手にまとめて、素晴らしい人間像を創り出すことにある」「三木のり平と違った写実的な喜劇をやれる唯一のコメディアン」と評し、次のエピソードを披露している。

「彼の出色した技は、映画、テレビでのめしの食い方である。フランスにはジャン・ギャバンが、食い上手で必ず一シーンは出てくるが、私は桂ちゃんのこの芸を盗もうと、彼の言い分を聞いた。

『噛んで食っちゃダメですよ。噛んでる時は客は口の中を想像しますからね。想像させないように早く──つまり、噛まずにのんじゃうんですネ。するといかにもおいしそうに食ってる風に見えるんです』

 ある日、私もやってみた。ところがどうだ、大きな肉の塊りが喉につまっていっぺんにNGになった思い出がある」

 相手を称えるだけでなく、ちゃんと自らのオチをつけて締めくくっているあたりも、さすがは森繁といえる。

 若い頃からの朋友で、「社長シリーズ」をはじめ数多くの映画や舞台で共演してきた三木のり平については、「セリフ覚えが悪い」ということで面白おかしいエピソードを披露している。のり平は付き人に二宮金次郎の格好で舞台に立たせて、自らのセリフをつけさせていたというのだ。
 
 一方でエッセイ集『品格と色気と哀愁と』(朝日文庫)では「不世出の役者、日本喜劇界の至宝」と、のり平のことを絶賛している。中でも、舞台「佐渡島他吉の生涯」での芝居を「秀逸を極めた」と振り返っている。本作で、のり平は戦前の活動弁士を演じた。やがて映画がサイレントからトーキーに移行する際に職を失い、最後は「貧相な紙芝居のオッサン」として登場する。

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