プロ野球は勝つことが最終目標。しかし少し事情が異なる組織がある。それが二軍だ。一軍選手の調整、故障者のリハビリに、若手の育成。これを成績と両立させる。その難題に今、往年の名選手が挑んでいる。
現役選手さながら、ストッキングを上げたスタイルのオリックス・田口壮監督。自身の提案したランニングメニューを実行し、選手とともに球団の室内練習場の周りを走り込んでいた。
「監督に就任した時に“徹底的に走らせる”と宣言しました。運動の基本は走ること。長く走ることで自分の弱点が見えてくる。それに夏を乗り切るための体力も必要。特に二軍は暑いですから」(田口監督)
自身は約20年前、イチローらと黄金時代を築いた。しかし今の一軍は長期低迷が続いている。田口監督は「本気で悔しがらない。負け慣れてしまっている」と厳しく切り捨てた。そんな選手を変えるものは何か。田口監督は「環境」という言葉を繰り返し強調した。
「例えば大勢の観客が見守る一軍の試合を一度でも経験させれば、意識が変わる選手がいる。環境が選手を変えることもあるんです。
選手の能力を出し切らせ、最大限に発揮させてやる。そのための環境を整えてやるのが二軍監督の仕事だと思っています」(同)
大きな目を見開き、熱っぽく語る。
「まだ手探り状態で、うまくいっているのか、いっていないのかもわからない(笑い)。でも、選手に悔いだけは残させたくないんです」(同)
【たぐち・そう】1969年、兵庫県出身。1992年にオリックスに入団。走攻守揃った外野手として1995、1996年の2連覇に貢献した。2002年からはメジャーに移籍し、2006年にはカージナルスで世界一を達成する。2012年に引退。生涯打率は.276(.279=MLB)、70本塁打(19本塁打=同)
●取材・文/鵜飼克郎 撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年6月24日号