●3年、5年先まで辛抱できない
「農業は育てた農作物がお金に換わるまでタイムラグがあります。例えば、キャベツを栽培するにも種を撒く準備に5か月、収穫して販売するまでさらに5か月を要します。そして、実際にキャベツの代金が振り込まれたときには10か月分の設備費や人件費をペイしたうえで儲けを出さなければなりません。
そんな緻密な資金計画や栽培計画を積み重ね、3年後にようやく事業の道筋が見えてくるものです。さらに、農作物の販路を拡大させてビジネスを軌道に乗せるまでには2年かかる。つまり、参入から5年先のビジョンや体力(資金)がない企業は、泣かず飛ばずのまま早期撤退を余儀なくされてしまうのです」
●社員が普通の「農家」になってしまう
「いまの農業は生産さえしていれば成り立つプロダクトアウト型のビジネスではありません。いくら鮮度がよく質の高い大根ができても、それを売るためには出口となる消費者に喜ばれるよう、プロモーションをかけてサンプルを出してと、マーケットインの視点がないと経営は長続きしません。
ところが、これまで顧客第一でビジネスをしてきた企業でも、農業従事者になるとなぜか顧客や納期のことはすっかり忘れて、出来のいい農作物をつくることに集中してしまうのです。
それは大手商社でも同じことがいえます。総合職の求人を出せば大卒で優秀な人材がたくさんエントリーしてくるのに、その商社が農業事業部や農業法人を立ち上げて募集をかけると、“農業”のキーワードに惹かれて入ってくる人ばかり。すると、会社の事業計画とはミスマッチな『おいしい大根づくり』が始まってしまうのです」
●“IT脳業”の本質をはき違えている
「現在の農業は機械化やIT化が進み、一度も田んぼに入ることなく米をつくることもできますし、オートメーション化で温度を一定に管理したり、台風の災害などに備えて最新の防護壁を設置したりするところもあります。農業から“脳業”への意識改革が行われていることは評価できます。
しかし、農作物が育つ環境にばかりIT技術やお金を費やして利益が上がらなければ本末転倒です。農業ビジネスは1個のトマトをいくらで売るかではなく、〈半年の間に12トンのトマトを1200万円で納める〉といったスケール感です。いわば契約栽培という名の“先物取引”をしているわけです。
そこで、トマトの鮮度管理よりも大事になってくるのが、タイムリーな情報です。農業のリスクヘッジはきりがないので、そこにIT技術を費やすよりも、「○月○日までのトマトの生産高は○トンになる」という収量予測を常に発信できる企業のほうが、マーケット側からの信用力が増し、次のビジネスに繋がりやすいのです」