世界的ブライダルファッションデザイナー・桂由美さんをモデルにした小説『ウエディングドレス』(幻冬舎刊)は、花嫁衣装をキーワードに、戦後70年の女の歴史をリアルに描いている。この本に込めた思いについて、著者である玉岡かおるさん(59才)に聞いた──。
昔、女児のあこがれは、お嫁さんで、お絵かき帳や塗り絵帳の最後のページは、決まって花嫁さんだった。今は金銭的理由等で式を挙げない人も増加しているが、それでもやはり女性にとって、ウエディングドレスは格別な存在に変わりはない。執筆の直接的なきっかけは、娘の結婚だった。
「去年、長女(31才)が結婚したんです。その時に桂由美さんと親しい友人が、『娘さん、桂さんのドレス着たら?』と紹介してくださったんです。桂さんとお会いした時、私の母が戦後に洋裁学校の校長をしていたというお話をしたら、『あら、そうなの!』から始まって、とても話が弾んで。母と同世代で、育ってきた環境も似ていました。
私はもともと、子供のころから輝いている人生を送ってきた人より、一生懸命小さな光を見つけて努力する人に惹かれるんですね。だから私が書く小説の主人公は、世間的には知られていない人がほとんど。
実は桂さんも、お名前こそ有名ですが、これまでの輝かしい業績をはじめ、その半生は一部しか知られていないんです。しかもこれまで桂さんの人生そのものが客観的に描かれた本は一冊も世に出ていない。またとない機会だと思いました」
桂由美さんは1932年、東京生まれ。フランスに留学してファッションを学び、帰国後は日本初のブライダルファッションデザイナーとして活躍した。玉岡さんは、戦中から戦後、そして高度経済成長を駆け抜けた桂さんを描けば、戦後70年すべてが展望できると気づいた。
「何回かお食事を一緒にしながらお話をうかがったのですが、一度話し出すと、途切れることなく3時間はお話ししてくださったことがあります。気づいたら時間が経っていて、ああもう帰らなくちゃ! っていうことが何度もありました。桂さんは本当にすごいパワーの持ち主なんです」
桂さんをモデルにした登場人物は、ファッションデザイナー佐倉玖美。実在する人物にフィクションを入れる苦労もあった。
「東京大空襲の時、隅田川の川岸にマネキンが転がっているかと思ったら、空襲で焦げた人間だったというシーンが小説に出てきますが、これは桂さんが体験された実話なんです。でも、そうしたつらい体験を『私よりもっと大変な思いをした人がいるから』と、多くを語られないんですよ。淡々と話され、苦労してないとさえおっしゃる。
小説である以上、ドラマチックに仕立てなければなりませんが、そこで桂さんの人生を捻じ曲げて無理やり膨らませるのは、違うと思いました。桂さんのいいところに光を当てるようにしました。でも、玖美が光の部分だけだと物語が単調になってしまって、波乱万丈さがない。なので、影の部分、時代のうねりに翻弄されて、めいっぱい苦労したはずの女たちの象徴として、玖美の同級生で服飾研究家の田代窓子という架空の人物を作りました」
※女性セブン2016年7月7日号