国際情報

ハンセン病差別撤廃 ローマ教皇を動かした日本人の「直訴」

バチカン初の国際シンポジウムの様子

 カトリックの総本山、バチカンのサン・ピエトロ広場の遠近で、順繰りに拍手と歓声があがる。いくらか時間が過ぎて、陽射しがうっすらと見えてきた頃、大聖堂前の私のまわりでも、2日間を一緒に過ごしてきたハンセン病回復者の皆さんが総立ちになり、歓喜の表情で握手やハグをくり返した。

 6月12日午前、バチカンで一般ミサが開かれた。世界中からつめかけた人びとの前で、フランシスコ教皇がこのように述べたのである。

「9日、10日の両日、ハンセン病をめぐって、ローマ教皇庁で初めて国際シンポジウムが開催されました。私は成功を祈りつづけていました。この病に対する闘いに、実り多い取り組みがなされることを期待します」

 シンポジウムのタイトルは「ハンセン病患者・回復者の尊厳の尊重とホリスティックケアに向けて」。日本財団と教皇庁保健従事者評議会の共催で行われた。仕掛けたのは、いま目の前で回復者たちと握手を交わす日本財団会長の笹川陽平。

 アジア、アメリカ、南米、アフリカから集まった回復者たち。それに医療・福祉・人権問題従事者のほか、ローマ・カトリック、イスラム、ヒンズー、ユダヤ、仏教の宗教指導者たち計230名が45ヵ国から参加したこのシンポジウムでは、「ハンセン病差別の撤廃」「病者とその家族への支援」「回復者の社会復帰」の3つをテーマに意見が交わされ、世界に向けて画期的な「結論と勧告」が採択されたのだ。

1.ハンセン病に対する偏見と差別の闘いにおいては、回復者が主役となるようサポートする。
2.レパー(leper)という差別用語を使わない。また、ハンセン病を悪い喩えに使わない。
3.宗教は教育や行動につながる活動に取り組み、重要な役割を果たす。
4.各国政府は2010年に国連総会で採択された差別撤廃決議を実行しなければならない。
5.差別的法律は廃止しなければならない。
6.新たな患者を生まないためにも、新しい診断等、科学的な研究を進める。

 2の「レパー」とはハンセン病患者を指す言葉で、英語の聖書にも出てくる。黒人を「ニガー」などと蔑む目的で言うのに等しい。4の「国連総会の差別撤廃決議」は、笹川陽平が年月をかけて実現にこぎつけたもの。5の「差別的法律」というのは、たとえば公共交通機関やホテル、レストランの利用を禁止する条例が今も生きている国があるということ。世界は日本ほど穏やかではない。

 なぜこのようなシンポが開催されたのかというと、教皇フランシスコが差別的発言をしたことが発端なのである。

 2013年6月、「出世主義はハンセン病だ。出世主義はやめましょう」。バチカンの聖職者にはびこる出世第一主義を、改革者たらんとする教皇は戒めたわけだが、ハンセン病を悪い喩えに使ってしまった。半世紀近く同病の制圧活動と差別撤廃のための活動を続けてきた笹川陽平は、すぐさま教皇庁に抗議書を送り、同病の現状と深刻な差別の問題をめぐってシンポを開かせてほしいと申し入れたのだ。

関連キーワード

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン