でも、その後も教皇からは同病差別の発言が続き、そのたびに笹川陽平は同様の抗議をしたが、なんの返答も来なかった。

 ところが今年1月下旬になって、教皇庁からシンポ開催の要請が届いた。教皇は昨年冬の初めから今年晩秋にかけての期間を、数十年に一度の「慈しみの特別聖年」としている。罪を犯した者は懺悔して特別に許しを得られるのだという。

 私などには、「許し」を得たいのは教皇自身ではないかと思われて、なんだか急に親しみがわいてきた。

 聖書には、ハンセン病差別を煽る記述が数多く出てくる。病者たちはそのために、2000年以上にわたって呪われた者と見做され、人間扱いされてこなかった。キリスト教のみならずこの日本でも、ひとたび同病に罹れば戸籍から抜かれ、強制隔離の悲しみに沈まねばならなかった。

 シンポでもっとも熱い拍手で迎えられたのは、日本から招待された石田雅男さん(79歳、長島愛生園自治会副会長)であったかもしれない。「人間らしく生きたい」と石田さんは言い、ミサ終了後、感想を尋ねてみると、次のような答えが返ってきた。

「私はプロテスタントですが、キリスト教徒として、このような場所に立ちあえて本当にうれしいです。ハンセン病に関する国際的な会合に参加するのは初めてでしたが、海外の若い世代の回復者と交流ができてよかった。まだまだ私もやらなければならないことがあると、勇気がわきました」

 ミサより4日前の8日午前、笹川陽平は謁見ミサに参列し、炎天下で待つこと2時間半、やっと面前にやって来た教皇に“直訴”している。若い頃、ヨハネ・パウロ2世に謁見したさいの写真を手にして、自己紹介しながら、日本人通訳にイタリア語にしてもらった1通の文書を見せたのだ。

「ハンセン病をどうか悪い喩えに使わないでください。世界に伝えてください」

 この人の情熱は、どこから来るのだろうか。

 善意や善行から正しい世の中が生まれるとは限らない。なにかの間違いが、このようにビッグバンを起こす場合があるのだ。12億人のカトリック世界に、「結論と勧告」が早急に伝えられる。他の宗教も無視できまい。聖書の記述や解釈にも大転換が起こるかもしれない。

■文/高山文彦 ■撮影/富永夏子

※週刊ポスト2016年7月8日号

関連キーワード

トピックス

元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
日本テレビの杉野真実アナウンサー(本人のインスタグラムより)
【凄いリップサービス】森喜朗元総理が日テレ人気女子アナの結婚披露宴で大放言「ずいぶん政治家も紹介した」
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
伊勢ヶ濱部屋に転籍した元白鵬の宮城野親方
元・白鵬の宮城野部屋を伊勢ヶ濱部屋が“吸収”で何が起きる? 二子山部屋の元おかみ・藤田紀子さんが語る「ちゃんこ」「力士が寝る場所」の意外な変化
NEWSポストセブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン