さて、馬の身になってみるとどうでしょうか。馬は障害がそれほど嫌いではないと思うのです。障害を飛ぶとき、背中の使い方が直線的ではなく立体的になり、背の緊張が取れる場合もあるからです。「飛んだ後、なんかラクに走れるようになったぞ」などと感じているような印象がある馬もいます。

 いま障害レースで健闘しているタニノタキシードはウオッカの全弟ですが、調教で力強く走るものの、競馬の結果につながりませんでした。

 未勝利脱出は10戦目、500万条件を勝つまでにも10戦を要しました。勝てない原因ははっきりしていました。この馬は気性が一本気で、人間の指示を聞かないところがある。

 それで調教に障害を入れてみると、コントロールがぐっと容易になりました。飛越によって息の入れ方や背中の使い方を覚えて、リラックスして走れるようになったんですね。

 速く走るためには上下運動のブレを少なくするほうがいいに決まっています。しかし、あえて障害のジャンプを経験させて、走りにタメを作らせることも有効となる。馬が見違えるように躍動する。それを目の当たりにできることも、調教師の醍醐味だと思っています。

●すみい・かつひこ:1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年8月12日号

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