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甲子園で8月15日正午に1分間黙祷する意味について

 甲子園では毎年8月15日の正午になると、試合を止めて1分間の黙祷を捧げる。グラウンドの選手も帽子を取って直立不動になる。観客もメディアも起立する。20年以上、私も毎年そうしてきた。ここ数年はそれが甲子園に行く目的の一部になっていると言っても良い。

 私の場合は、平和の中で戦争を忘れないための黙祷である。いまある日常がかけがえないのであることを忘れないために。目の前で野球をしている子どもたちの日常を守り続けるのが、大人の責任であると改めて自覚するために。

 8月9日、長崎商業は1回裏が終わるとベンチの前で小さな輪を作り、目を瞑った。71年前の8月9日午前11時2分、長崎に原爆が落とされた。その黙祷である。監督の西口博之がこの日の試合が決まったことで、「試合中に黙祷を捧げたい」と高野連に希望して実現したことだった。わずか20秒ほどの小さな輪を満員の観衆が気づくことはなかっただろう。だがその20秒こそが、明日の平和を築いていく。

 広島代表の選手で8月6日を知らない者はいない。沖縄代表の選手で6月23日を知らぬ者はいない。祈りの時間を捧げてから彼らは甲子園にやってくる。

 高校野球の選手だけでなく、世界にはそうやって戦争への黙祷を捧げる人が数多く存在するだろう。そうやって私たちの日常は小さな祈りが積み重なってできている。祈りを知らぬものに平和や戦争を語ることはできない。8月15日は、他者の祈りを想像する日でもある。

「これから戦場に向かいます」はポプラ社より発売中。また青森県立美術館では、今年10月8日から企画展青森県立美術館開館10周年記念「生誕80周年澤田教一:故郷と戦場」を開催する。

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