ライフ

富士山の県境争いは数百年にわたって未解決

静岡県と山梨県は富士山頂域をめぐって対立(写真:アフロ)

 富士山の地形図を見ると山頂部から東側斜面(約5km)にかけて県境の境界線が途切れ“県境未定領域”になっている。山梨県と静岡県による「富士山の県境争い」は江戸時代の甲斐と駿河の国で始まり、数百年にわたって未解決のままだ。

 現代も両県民の間で領有を主張する言説がネットで飛び交っており、「千円札に描かれた逆さ富士は山梨側から描かれている」「富士五湖はみな山梨県」と山梨県民が訴えれば、静岡県民は「山梨側の富士山は“裏富士”だ」「東海道新幹線から見えるのは静岡の富士山」と反論するといった具合だ。

 だが、県の担当者によれば、「2013年に富士山が世界遺産に登録されたのを機に、両県知事の間で『県境を定めず、お互いに富士山の保全に協力していく』という約束が交わされ、今は、山頂の帰属を求める活動はしていません」(山梨県県民生活部世界遺産富士山課)とのこと。静岡県側もほぼ同じ回答だった。

 現実的には、県境が未確定でも特にデメリットはないので、両自治体は「棚上げがベスト」という判断を下したようだ。

 他にも、帰属や境界未定地を巡る争いは全国各地に存在する。北海道釧路町と厚岸町では1901年(明治34年)から境界問題がくすぶり続けている。

 東京・江戸川区と千葉・市川市にも都県境未定地がある。河岸の浸食、中洲の形成により都県境を巡るバトルが勃発している。

 東京湾の中央防波堤では、その帰属を巡って大田区と江東区が対立している。江東区側は「埋め立てにより、江東区は悪臭やハエの大量発生などに苦しめられてきたから帰属は当然」と主張し、大田区側は「中央防波堤のある場所は古くから大田区の事業者が海苔養殖場として利用していた」と一歩も退かぬ構えだ。

 愛知県のポートアイランドは延べ337haに及ぶ帰属未定の人工島だ。周辺の弥富市、知多市、東海市、飛島村、名古屋市の4市1村が注目しており、今後、紛争に発展する可能性がある。

 国内の“領土紛争”は、自治体や住民の利益とプライドをかけた戦いでもあるのだ。

※SAPIO2016年9月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

復帰会見をおこなった美川憲一
《車イス姿でリハビリに励み…》歌手・美川憲一、直近で個人事務所の役員に招き入れていた「2人の男性」復帰会見で“終活”にも言及して
NEWSポストセブン
遠藤敬・維新国対委員長に公金還流疑惑(時事通信フォト)
公設秘書給与ピンハネ疑惑の維新・遠藤敬首相補佐官に“新たな疑惑” 秘書の実家の飲食店で「政治資金会食」、高額な上納寄附の“ご褒美”か
週刊ポスト
高市早苗首相(時事通信フォト)
高市早苗首相の「官僚不信」と霞が関の警戒 総務大臣時代の次官更迭での「キツネ憑きのようで怖かった」の逸話から囁かれる懸念
週刊ポスト
男気を発揮している松岡昌宏
《国分騒動に新展開》日テレが急転、怒りの松岡昌宏に謝罪 反感や逆風を避けるための対応か、臨床心理士が注目した“情報の発信者”
NEWSポストセブン
水原受刑者のドラマ化が決定した
《水原一平ドラマ化》決定した“ワイスピ監督”はインスタに「大谷応援投稿の過去」…大谷翔平サイドが恐れる「実名での映像化」と「日本配信の可能性」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(Instagramより)
「球場では見かけなかった…」山本由伸と“熱愛説”のモデル・Niki、バースデーの席にうつりこんだ“別のスポーツ”の存在【インスタでは圧巻の美脚を披露】
NEWSポストセブン
モンゴル訪問時の写真をご覧になる天皇皇后両陛下(写真/宮内庁提供 ) 
【祝・62才】皇后・雅子さま、幸せあふれる誕生日 ご家族と愛犬が揃った記念写真ほか、気品に満ちたお姿で振り返るバースデー 
女性セブン
村上迦楼羅容疑者(27)のルーツは地元の不良グループだった(読者提供/本人SNS)
《型落ちレクサスと中古ブランドを自慢》トクリュウ指示役・村上迦楼羅(かるら)容疑者の悪事のルーツは「改造バイクに万引き、未成年飲酒…十数人の不良グループ」
NEWSポストセブン
現在は三児の母となり、昨年、8年ぶりに芸能活動に本格復帰した加藤あい
《現在は3児の母》加藤あいが振り返る「めまぐるしかった」CM女王時代 海外生活を経験して気付いた日本の魅力「子育てしやすい良い国です」ようやく手に入れた“心の余裕”
週刊ポスト
熊本県警本部(写真左:時事通信)と林信彦容疑者(53)が勤めていた幼稚園(写真右)
《親族が悲嘆「もう耐えられないんです」》女児へのわいせつ行為で逮捕のベテラン保育士・林信彦容疑者(53)は“2児の父”だった
NEWSポストセブン
リクルート社内の“不正”を告発した社員は解雇後、SNS上で誹謗中傷がやまない状況に
リクルートの“サクラ行為”内部告発者がSNSで誹謗中傷の被害 嫌がらせ投稿の発信源を情報開示した結果は“リクルートが契約する電話番号” 同社の責任が問われる可能性を弁護士が解説
週刊ポスト
上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン