九州・長崎に「からあげ」のイメージは定着していないかもしれない。しかし、この地には長くソウルフードとして愛されていた「伝説のからあげ」があった。
長崎市内の風情溢れる石畳の飲み屋街・銅座町にかつてその店はあった。暖簾をくぐると、コの字の大きなカウンターと小上がりに小さなテーブルが二つ。カウンターの中の調理場ではひたすら鳥が揚げられる。
からあげは九州らしく甘みのある味付けで、様々な部位の入った小振りな骨付きのぶつ切りだ。衣はカラッとクリスピーで、鳥肉もしっとりとジューシー。筆者は初めて食した時、その完璧な火の通し方に驚いた。
メニューにはその他に骨付きもも肉を調理した「もも焼き」や「むね焼き」、「すなずり串」などもあるが、ほとんどの客はビールをグビグビ飲みつつ一皿二皿とひたすら揚げたてのからあげを平らげていく。
ちゃんぽんや皿うどんのように観光客に求められるわけでもなく、親子三代にわたって地元の呑んべえ諸兄に熱く支持され続けていたこの店が、2年前に突然幕を閉じた。当然、長崎の街では大ニュースとなり、閉店日が近くなると毎日大行列ができたほどだという。その「伝説のからあげ」が、昨年8月また我々の目の前に現れた。
かつての店と軒を連ねる一口餃子の名店「宝雲亭」の女将が一肌脱いだ。当時の店で鳥を揚げていた職人を招き、新店「とり福」として復活させたのだ。
この度、満を持して訪ねてみた。果たして味は期待以上だった。まさにあの伝説の味。記憶は美化されるものだとしたら、これはかつての味を超えているのかもしれない。