昨年10月、盲導犬と一緒に通勤中だった視覚障害者(享年50)が、前方からバックしてきた2トントラックにはねられた。男性も盲導犬も亡くなったこの事件では、「盲導犬は本能的に飼い主をかばったのかもしれない」などと伝えられたが、こういった盲導犬の話はたくさんある。そのため、今回の事故で、盲導犬だけが助かったことに「なぜ?」の声が上がっている。前出・和田さんが続ける。
「盲導犬が視覚障害者を連れて歩くのではなく、視覚障害者と盲導犬の共同作業で歩いています。盲導犬の仕事は5つ。指示で前に進む、交差点で止まる、障害物を避ける、指示された物を探す、車が来ているときに“前に進め”という指示を出しても、“従わず、動かない”ということ。そして褒めて教えることが基本です。
また当協会では駅のホームは、線路側を盲導犬が歩くというのも基本。人が線路側にいた場合、どこまで端に寄ったら人が踏み外すのか、犬に意識させるのは難しいのです。盲導犬が線路に落ちそうになったら、落ちまいとします」
しかし前述したとおり、品田さんの立ち位置は、基本の逆だった。
「駅のホームも“極力歩かない”というのが基本。ホームに出たら極力移動せず、止まる。電車が来て、ドアが開いてから歩き出せば、線路に落ちることを防ぐことができます。歩くほどリスクは高まるんです。
しかし、皆さんが尋ねるように、基本指導と違っていたから品田さんが落ちてしまったとか、単純なことではないと考えています。視覚障害がない人でも、考え事をしていたら赤信号なのにふっと車道に飛び出したということもありますから」(和田さん)
◆どんなに慣れている場所でも視覚障害者にとって駅のホームは死と隣り合わせ
日本盲人会連合が視覚障害者252人を対象に行ったアンケート(2011年実施)では、「ホームからの転落経験がある」と答えたのは37%。「転落しそうになったことがある」と答えた人は実に60%にものぼった。そして「どのようにしたら転落を防げると考えますか」との問いには、ほとんどすべての人が「ホームドアの設置」(複数回答)と答えている。
国土交通省鉄道局都市鉄道政策課の担当者によると、現在全国9500駅のうち、655駅にホームドアが設置されており、「東京五輪のある2020年度末までに、全国800駅にホームドアを設置したい」という。2011年の段階で、「利用者数が1日当たり10万人以上の駅について、ホームドアを優先的に整備する」と打ち出しているが、これに該当する全国251駅のうち、ホームドアが設置されているのはわずか77駅。これは全体の30.7%で、1日11万人が利用する青山一丁目駅は、繰り返すが、ホームドアが設置されていなかった。