鉄道評論家の川島令三さんは、ホームドアの設置が進まない理由をこう説明する。
「今回事故が起きた銀座線の青山一丁目駅は、構造的にホームドアの設置が難しい。他の路線も含めてほとんどの駅のホームは、ホームドアの重量に耐えられる設計にはなっていません。なのでまずはホームの補強から始めなければなりません。そして銀座線の大半の駅のホームにある柱が、線路の直近に建っていることがいちばんの問題。ホームドアをつけても、ホームの黄色い線の近くに柱があって歩行の邪魔になったり、稼働柵のところにちょうど柱があると電車の乗り降りがうまくできません。柱を壁寄りに移設してからホームドアを設置することになっていますが、大掛かりな工事になるので、着手が遅れています」
実は品田さんは、青山一丁目の駅職員の間でよく知られていた。品田さんのような視覚障害者や車椅子の人などはフォローが必要なため、職員間で情報共有が徹底されているのだ。「それにもかかわらずなぜ」との思いが一層募る。
「体の不自由なかたが利用する場合にはその動向に注意するとともに、声がけが必要な場合は、迷わず声をかけています。特に初めてお見かけするかたはそうしています。一方で普段から利用されている人に関しては声がけをしても“大丈夫”と言われるのが現状。品田さんは少なくとも2か月以上前から、安全に同駅を利用されていたので、積極的に声がけをしていませんでした」(東京メトロ広報室報道担当)
前出の藤井さんは、自身もホームに転落したことがある。
「歩いているときは自分はちゃんと歩いているという確信を持っています。しかし方向性を見失うこともある。どんなに慣れている駅でも、進行方向に荷物が置いてあったり、人が立っていたり、歩きスマホでぶつかったり、そのたびに進行方向を修正していくなかで、自分の目指す場所と正反対の場所に立っていることもあるんです。
ホームドアは迅速に設置してほしいと切に願いますが、駅の係員や乗客の皆さまに、“危険ですよ”と声をかけていただければと思います。視覚障害者のほうが無視をしてしまう場合もあるかもしれません。でも、どうか懲りずに声をかけてください。その人は自分に呼びかけているのかどうかがよくわかっていないかもしれません。“白杖を持っているかた、危ないですよ”“盲導犬を連れたかた、立ち止まってください”など具体的に声をかけてください。厚かましいお願いですが、“大丈夫”と言われても、どうか声をかけてほしいのです。また右か左かも明確に伝えてください。“白杖を持っている方向に”とか、ホームでも“内側に”ではなく、“白杖を持っている方向に”と教えてほしいです」