「いえ、豊洲では買いません。豊洲は汚染問題があり、生ものを扱う場所ではない。つきあいのある仲卸が築地で商売を続けるので、そこで買います。築地に愛着があるし、豊洲は“買い物をしてほしい”という作りじゃない。私のように豊洲を避ける料理人は結構いますよ」(近藤さん)
築地ブランドを残そうという動きも出ている。10月15日には、築地場外市場に商業施設「築地魚河岸」がオープンする。
築地で仲卸などを営んできた水産49、青果7の56事業者(8月1日現在)が入居し、飲食店などの食のプロや一般客・観光客向けに早朝から食材を販売。2階建て(一部3階建て)の造りで晴海通りに面した側に透明なガラス壁面と巨大な階段を設置して街行く人を呼び込む造りだ。
東京・中央区地域整備課課長の松村秀弦さんが言う。
「これまで培った食文化の拠点としての活気と賑わいを将来に継承するため、新鮮で多品種の水産物や青果物を販売します。目利きのノウハウを生かした立派な品揃えをめざします。敷地内に通路を設けて、築地らしくターレ(市場で使われる運搬車)も使えるよう計画しています」
不安の声が消えないどころか、増すばかりの豊洲移転。築地が育んできた日本の食文化は、新市場に引き継がれるだろうか。冨岡さんは、こう語る。
「かつて日本橋から築地に移転した際は取引方法なども変わりましたが、やっている人は変わらず、昔ながらの風情は色濃く残って現在につながっています。今回の移転でも、仲卸を中心に市場業者が存在感を示し、工夫して力を大いに発揮して、築地を凌駕するほど繁盛してほしい。30年か40年後、“これが豊洲の魚河岸文化だ”と胸を張れる日がくればいいですね」
果たして小池都知事の決断は――私たちが安心して魚を口にできることはもちろん、これまでの築地がそうであったように、新たな市場が日本の食文化と心意気を体現する場所になることを切に願う。
※女性セブン2016年9月15日号