狐の面をつけた異形の参加者が、ドライアイスの冷気の上に模造骸骨を載せている。「これは何を意味するんですか」との筆者の質問に一言「死んだ人」。みると「一銭五厘」と熨斗紙が貼ってある。
赤紙で徴兵された「天皇制の犠牲者」の無念を訴えかけているのか。意味が分からない。すわデモ主催者の一人と思われる中年男性が詰問するように迫ってきた。
「あなた古谷さん?」
「はい」
「写真撮っちゃダメ、ダメだっ!」
唇がプルプル震えている。
「なんで?」
「お前は、我々のデモに身分を詐称して潜入しただろうっ!」
私は、2011年の8月に、この反天連デモに参加し、彼らと共に最終地点まで歩いた経験をブログ記事にアップしたことがある。男はそのことを身分詐称などと指して、私につき向かってきた。オープンなデモへの参加に詐称もへったくれもないはずだが。にわかに騒乱。「帰れ!」と怒鳴られる。
「僕はね、右翼を批判する記事も書いてるんだけど」と筆者が言うと「そんなことは分かってる!」と男。「だが、お前はだめだ!」
肩で息をしている。怒り慣れていない普段温厚な人物なのだろう。たちまち機動隊が間に入る。
反天連のスピーカー。「このデモへの参加は、我々が許可した者のみ! 撮影・取材を許可するメディアは、我々が選定する! 警察は我々の写真を撮るな! 肖像権の侵害だ!」。デモとは名ばかりの参加許可が必要な「お仲間」だけの示威パレードらしい。
●ふるやつねひら/1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。主な著書に『愛国ってなんだ 民族・郷土・戦争』『左翼も右翼もウソばかり』。近著に『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』。
※SAPIO2016年10月号