その一つが、次男の活男が本格的な西洋料理を学ぶため「海軍主計科に仕官したい」と言い出し、母・め以子が猛反対する場面です。母の思わぬ反対に、活男は「自分もあと3年すれば否応なしに徴兵されてしまう」「戦争に行かなくても空襲で死んでしまうかもしれない」「自分の好きなことをやって死にたい」と食い下がりますが、め以子は、「お母ちゃんを人殺しにするつもりか!」と一喝します。
戦争に行くことは「人殺しに行く」ことであり、また、それを許すことは子を死なせることでもある、というニュアンスで描かれているのです。
もちろん、子を想う母親の愛情は普遍的です。「3年のうちに(戦争が)終わるかもしれんやろ」という、め以子の言葉も、子供への愛情という意味で大変印象的でした。
ただ、当時は軍人だけではなく、民間人も空襲で殺されていく、そういう現実が目の前にあった時代です。愛する家族の命を守るために、自分ができることをしたい、そう考えるのが当時の一般的な国民の気持ちだったのではないでしょうか。
「戦争反対」は、戦争のない平和な時代だからこそ叫べるのであり、戦時下で戦争反対を唱えることは、目の前で多くの命が奪われていく現実からの“逃避行為”に過ぎませんでした。そういう時代に生きた当事者の気持ちを察すると、「戦争=人殺し」という単純な構図で描いたこのドラマは、あまりにも薄っぺらなものに見えてしまうのです。
【PROFILE】1956年生まれ。静岡県浜松市出身。会社員、会社経営を経て国史研究家として活動。日本の正しい歴史を伝える自身のブログ「ねずさんのひとりごと」が人気に。著書に『昔も今もすごいぞ日本人!』、日本図書館協会推薦『ねずさんの日本の心で読み解く「百人一首」』(いずれも彩雲出版刊)などがある。
※SAPIO2016年11月号