娘さんからそんなお話をお聞きしました。85年の人生で、大事にしているものが垣間見えたとき、おばあちゃんは私の中で、まもなくお迎えが来る単なる老人ではなくなっていました。人生を彼女なりに謳歌してきた姿が、色とりどりの花とともに私の脳裏に映し出された思いでした。
おばあちゃんは、大好きな花と咲き誇る花壇と、ご近所の人たちから「お花のおばあちゃん」と呼ばれていたことを思い返したのでしょう。それが彼女の“支え”となったに違いありません。
究極の苦しみの中にいる人でも、自分の中の“支え”を意識することで、穏やかな心境を得ることができる。多くのかたがたの看取りを通して、私はそのことを学びました。それは何も末期がんの患者さんだけに、言えることではありません。
“支え”の大切さは、苦しみを抱えるすべての人に当てはまるということを、この連載を目にされるかたは、心の片隅に置いていていただけると嬉しいです。
【プロフィール】
小澤竹俊
おざわたけとし/1963年、東京生まれ。1987年、東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。1991年、山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、1994年より横浜甦生病院ホスピス病棟に勤め、病棟長となる。2006年、めぐみ在宅クリニックを開院。これまでに2800人以上の患者さんを看取ってきた。主な著書に『今日が人生最後の日だと思って生きなさい』(アスコム刊)がある。
※女性セブン2016年9月29日・10月6日号