人生において家や車を買って所有することは「安心の証明」だった。だが、リタイアして余生を見据えたとき、それらの財産を「足枷」に感じてはいないだろうか。実はそれらの多くは、所有者の気持ち次第で、捨てることが可能なのだ。
家に次ぐ「人生最大の買い物」であるマイカーは手放せないモノのひとつ。「車がないと生活が不便になる」という“思い込み”から捨てられない人も多い。しかし案外、捨てても困ることはない。愛車を手放し、タクシー中心の生活を送る川辺信吾氏(73・仮名)が言う。
「2年前から買い物と通院にタクシーを使っています。年寄りになると車を必要とする外出なんてその2つくらい。頻度は週2~3回、どっちも1回2000円程度の出費です。ご近所さんからは“タクシーなんて贅沢だ”なんて言われるけど、車を持っていた頃より負担は軽くなっています」
車を手放すまで、川辺氏は自動車税と重量税だけで毎年10万円近くを払っていた。さらにガソリン代、2年に1度の車検費用、自賠責保険なども含めると、毎年60万円以上が車に消えていた計算になるという。
「タクシー利用に切り替えても年に30万円もかかりません。つまり30万円以上も節約できたわけです。それに5年前から白内障を患っていて、車を運転中も“事故を起こすんじゃないか……”という不安もありました。そのストレスから解放されたことで気持ちも楽になりました」(同前)
ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔氏も、車を処分するという選択肢を考えるべきだと言う。
「極端に交通の便がない地方なら別ですが、地方都市在住でも週1~2回程度しか車に乗らないならタクシーを利用したほうが安上がりでしょう。もちろん、電車やバスを使えばなお安上がりになる。リタイア世代にとって車は“カネ喰い虫”そのものです。
いまや60歳以降の人生は男性でも平均で約20年ある。仮に6~7年で車を買い替えるとすると、死ぬまでに3回も買い替えることになる。諸々のコストを合わせれば、老後に計1000万円近くも車に使うことになりかねない。
安全面の問題もあります。運転能力が落ちてきていることも客観的に考えて、車を捨てるタイミングを考えるべきです」
車好きにとっては、愛車に別れを告げるのは辛い。しかし、老いればいつかは手放さなければならない時が来る。運転がまだ楽しめるうちに、その判断を下したほうがいいのではないか。
※週刊ポスト2016年9月30日号