「最近は屋外でも喫煙できる場所が少なくなったため、通りがかりの人がビルの裏で隠れてたばこを吸ったり、清掃ボランティアに参加している近所の神社や公園でポイ捨てしたりするケースが目立っていました。
だからといって、一般にも開放する喫煙所をつくることは、防犯や管理上の問題も多く、社内では『会社がそこまでやらなくても』と反対意見が出ました。でも、われわれも港区の地域住民の一員ですし、広く社会の一員として、何か貢献しようという経営トップの判断もあり、設置することに決めました」
同社内にはそれまで4階に社員の喫煙所があったが、そこを廃止してまで1階に集約させた。つまり、社員も一般の利用者に混ざり、1階でたばこを吸わなければならなくなった。しかし、この方針転換により、働き方に変化が出てきたという。
「エレベーターや階段で1階まで下りるのは面倒で時間もかかるため、たばこの本数が減ったとか、夜7時で喫煙所を閉めてしまうので、それまでに仕事を終わらせて残業はしないよう心掛けている、などと話す社員が出てきました」(前出の担当者)
もちろん、オープンな喫煙所を設置したことで、周辺の環境美化やスモーカーのマナーが改善したことは言うまでもない。
実は港区では2003年より喫煙マナーの悪いスモーカー対策を始め、2011年に歩行・路上喫煙を禁止した「みなとタバコルール」を、2013年には喫煙による迷惑防止に関する条例を制定するなどして、区内巡回や指導を強化してきた。
しかし、港区が他の自治体と大きく違う点は、一貫して「たばこを吸う人も吸わない人も、誰もが快適に過ごせるまち」を目指してきたことだ。そのためには屋内外を問わず喫煙所の整備も必要な政策だと考えている。
港区環境課環境政策係長の駒井永佳氏がいう。
「たばこが合法である以上、喫煙者にはルールやマナーを守って吸っていただきたいと思っていますが、吸う場所が近くにないとか、どこで吸ったらいいか分からないといった理由で、路上喫煙やポイ捨て防止の徹底が“イタチごっこ”になっていた感は否めません。
それならば、区民の皆さんと一緒に喫煙場所や分煙環境をしっかりと整備し、吸う人と吸わない人を明確に分ける取り組みこそ強化すべきという方針を貫いてきました。在勤の喫煙者も多い事業所等に協力を呼びかけて、屋内喫煙所の助成制度を拡充しているのもそのためです」