「でんでぼっこ、でんでぼっこ、チャララララー」
どしゃ降りの雨の中、法被を着た約50人の若者の集団が独特のかけ声をあげながら、直径約1mの大きな木筒が載った台車を引いてゆく。台車の上の年長者は「やってくれーや!」と集団を励まし、若者たちは日本酒をラッパ飲みしては気合いを入れる。約7時間ほど町内を練り歩いた後、木筒は神社に奉納された。打ち上げ花火用の筒を運ぶ「筒引き」と呼ばれる行事である。
毎年9月9日、10日に開催される「片貝まつり」が今年も行なわれた。新潟県小千谷市片貝町にある浅原神社の秋季例大祭に合わせた214年の歴史を誇る奉納花火で、人口4000人の同町に約15万人の観光客が押し寄せる国内屈指の花火大会だ。朝の合図花火から始まり、夜の部の午後10時半まで、両日合わせて約1万5000発の花火が打ち上げられる。
片貝まつりの花火は、地元の人たちが成人や還暦、結婚、長寿の祝いや初孫誕生、故人の追悼、あるいは商売繁盛などの願いを込めて打ち上げるのが特徴だ。大会の進行プログラムである「花火番附」には、「尺玉 二発追打」など花火の種類とともに、「○○、成人おめでとう! なりたい自分に向かって突き進め! おじいちゃんもみているよ 家族一同」などのメッセージが綴られている。花火にかける費用は生涯で100万円とも言われ、周辺の町では「片貝から嫁はもらうな」と冗談めかして語られるほどだ。
地元の片貝中学の卒業生は、成人を迎える20歳や、33歳や42歳の厄払い、還暦などの節目ごとに集まって記念の花火を打ち上げるのが伝統だ。進学や就職で町を離れた卒業生も、祭りの日には町に戻ってくるという。
片貝まつりの目玉は、現在打ち上げられている花火の中で世界一大きな「正四尺玉」。直径120cm、重さ420kgの大花火は両日とも午後10時に打ち上げられた。爆音とともに直径800mの大輪の花が咲くと、観客から大きな歓声と拍手が沸き起こった。
■撮影/冴木一馬
※週刊ポスト2016年10月7日号