──今どき、子供にそこまで厳しく対する親はいません。
石原:普通の人間……多少の常識や社会性を備えた人間なら、子供相手には手加減をするものですが、阿川さんもうちの親父もそういうものが欠けているから、容赦はしない。大人も子供も分け隔てなく扱うという意味で公平と言えなくもないのですが、子供からしたら怖いですよね、大人が本気になって向かってくるのだから。
──公平とは言っても、佐和子さんも書いているように〈父の決断が絶対〉ですよね(笑)。
石原:昔、石原家の僕たち4人兄弟が幼い頃、家族みんなで住んでいた逗子の家では、書斎に書庫にプレイルームと、親父が専有する部屋はいくつもあったのに、子供部屋は兄弟でひとつだけでしたよ。
面白いのは夕食が完全2部制だったこと。まず祖母、母、僕ら兄弟……つまり「女子供」が食事をすませ、その食卓が綺麗に片付けられてから親父の食事が始まるのです。石原家では酒が大人への登竜門で、酒が飲めるようになると、「女子供」の食卓から親父と一緒の食卓に昇格します。しかし、体調が悪く、飲みっぷりが悪いと、「飲め、さもなくば去れ」なんて言われてしまう(笑)。
ちなみに、孫ができたら、親父は孫に自分のことを「おーちゃん」と呼ばせるのです。「王様」という意味です(笑)。で、孫に向かって「お前のお父さんやお前は、まあ、王子様だな」なんて。「おばあちゃんは?」と聞かれると、「大臣だ」だって(笑)。王妃じゃないんですね。そのくらい自分が絶対的な存在なんです。
──よく「怒る」と「叱る」は違うと言われますが。
石原:叱るというのは相手のことを考え、相手の成長を促す教育的な行為ですけれど、怒るというのは相手のことなど考えず、ただ自分の感情をぶつけるだけ。その意味で言えば、僕ら兄弟は親父から叱られた記憶はほとんどなくて、怒られてばかり(笑)。阿川さんのところも同じじゃないかな。
だから、僕は結婚して子供が2人いますが、子供のうまい叱り方がわからなくて、奥さんに任せています。彼女は普通のちゃんとした家庭に育っているから、見ていると、なるほどというやり方で叱ったり褒めたりしていますね。
──阿川さんにしても石原さんにしても、わがままな生き方を貫けたのはなぜだと思いますか。
石原:この本にも阿川さんが「自分がものを書くのは、一に妻子を養うためだ」と言ったと書いてありますが、うちの親父も「俺が仕事をしてお前らを食わしてやっているんだ」とよく言っていましたよ。一方的な思いかもしれないけれど、家族に対するそういう愛情は強いのです。
阿川さんにしてもうちの親父にしても、出世して社会的に偉くなったから威張ったり、わがままになったりしたわけではなく、最初からそう生きているのです。その生き方を貫くためには大変な努力をし、エネルギーを費やしている。阿川さんもうちの親父も、人を納得させるだけの勉強を続け、どんなに苦しくても書き続けるわけです。
※SAPIO2016年11月号