◆中華30軒食べ歩き
新商品開発に向けて、津島氏らは中華料理屋へ通った。
「約30軒食べ歩いてわかったこと。それは、何と言っても皿から立ち上る最初の香りと、食後に鼻で楽しむ風味の大切さでした」
食欲を刺激するのは「香り」「風味」だと実感。しかし、冷凍食品は「香り」を扱うことに不向きな商品だった。
香ばしい香りを具現化するために研究所での試作は数十種類に及んだ。そんな中で「ニンニクを香ばしく焦がしたマー油、つまり豚骨ラーメンにかける黒い液体が使えるのではないかという研究所の提案に衝撃を受けたのです」
さらに、味の「厚み」「こく」を作り出す工夫も必要だった。懐刀になったのが味の素グループが新開発した「コク味」を出すアミノ酸の結合体である「グルタミルバリルグリシン」。
「国内での使用認可をとったばかりの新素材ですから、冷凍食品では初めてのチャレンジとなりました」
味の素グループゆえのイノベーションの強みを生かした。焼き豚も特注。三元豚をタイの工場で加工し脂のうまさを際立たせた。最初に口に入れた時の香ばしさ、そして中間と余韻。三回の風味の頂点を作り出し、食欲を刺激し続ける「ザ・チャーハン」が誕生した。具材を減らすマイナスを、「香り」「コク味」をプラスすることで克服したのだ。しかし、課題がもう一つ残っていた。
「多くのお客様から指摘されたこと。それは、一パック450gという量がとても使いづらい、という点でした」
市販の冷凍炒飯は、なぜか各社450gと横並び。この量は一人分では多く、二人分だと少ない。いったいなぜなのか。
「かつての冷凍炒飯は500gだったのですが材料の高騰などで50g減らした経緯があります。つまり、450gという容量はメーカーの都合でしかなかったのです。量を増やすと価格が高く見えてしまい競争力が弱まるかもしれない。そのため、メーカーとしては量を変えることには手がつけにくかった」
しかし「ザ・チャーハン」はその難題に挑戦した。
「中華料理屋にこっそりハンディの秤を持ち込み、炒飯の容量を量ってみたら調理器具のお玉一杯でほぼ300gと判明し、それに沿って一人分の容量を決めました」
新商品は分量もパッケージも刷新された。「香り」「コク味」に、「分量とパッケージ」がプラスされた。二人分の600g入り。従来の横長型ではなく、正方形になった。赤いパッケージが標準的だった冷凍食品に、斬新な「黒」と「金」を採用した。こうして、インパクトの強い鮮烈な新商品「ザ・チャーハン」が誕生した。