繊細な若駒は調教が難しい。図太い馬(エピファネイアやデルタブルースなど)は強く攻めることで調教の成果が急に顕れることもあります。しかしカイザーバルのような馬はカイバ喰いの様子を見ながら丁寧に育てる。いわば紙を一枚一枚積み重ねるように。馬が神経質であればあるほど、力がつくのに時間がかかるわけです。

 だからローズSの走りを見て安心するのは早計で、ようやくメドがついたという感じでしょうか。まだ発展途上、なにしろ紙一枚の積み重ねですから、4歳になればもっと良くなります。

 とはいえ華やかな雰囲気に包まれる秋華賞はとても楽しみです。トライアル3着だとそれほど注目されないところもいい(笑い)。今後の距離の方向性も秋華賞の走り次第となりそうですね。

 春のクラシック戦線上位馬と戦うには先行策が常道でしょうが、カイザーバルにはやらせにくい。しっかりとタメを作って走ってほしい。他の馬が逃げ宣言をしてくれないかな、などと都合のいいことを思っています。素質は間違いなく一級品、あとはその力を引き出してやるだけです。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年10月10日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年10月28日号

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