1か月前に妻を亡くした72歳の男性は、悲嘆に暮れる毎日を送っているという。
「1人になってからというもの、食事はインスタント食品ばかりで、家の中は散らかり放題。妻の生前は、『ゴロゴロするな』『ゴミ出してよ』と毎日小言を言われて鬱陶しかったけど、いまはたまらなく寂しい」
総務省の国勢調査(2015年)によると、妻に先立たれた65歳以上の男性は約144万人に上る。仲の良かった夫婦はもちろん、尻に敷かれて辛い思いをしていたはずの男性も、いざ妻に先立たれると、その存在の大きさに気付かされる。
最近では配偶者と死別した人のことを「ボツ(没)イチ」と呼ぶのだというが、昔は三世代同居が珍しくなかったため、「ボツイチ」になっても子供や孫と一緒に暮らせたが、最近は同居が減り、65歳以上で1人暮らしをする「独居老人」の数は男女合わせて596万人(2014年)に及ぶ。
配偶者と死別した場合、女性に比べて男性のほうが「ダメージが大きい」と精神科医の和田秀樹氏は語る。
「男性にとって、妻は配偶者という立場だけでなく、自分の世話をしてくれる母親的な存在になっていることが多い。心理的な依存が大きい分、ダメージも大きくなる。また、男性は家事ができない人が多いので、急な環境変化に対応できずうつ状態になってしまったり、会話が減ってボケてしまう人もいます」
この分析を裏付けるデータがある。米国・ロチェスター工科大学の研究(2012年)では、「妻を亡くした男性は平均よりも早死にする可能性が30%高い」との結果が出た。
また国立社会保障・人口問題研究所の『人口統計資料集』(2005年)によると、配偶者がいる男性の平均寿命が79.06歳なのに対し、1人暮らしの男性は70.42歳と未婚男性は約9歳近くも短命だという。
原因は、妻を亡くした喪失感に加え、食生活が乱れて栄養が偏ってしまう、生活リズムが不規則になるといった健康上の問題にある家族問題評論家の宮本まき子氏はいう。
「奥さんもおらず、仕事もない高齢男性には、お酒のストッパー役がいない。酒浸りが習慣になったり、急性アルコール中毒で搬送される人は多いのです」
妻に近所付き合いを任せきりで友人が少なく、孤独感に苛まれる男性も多い。
「先日、町内会のボランティアに参加したが、会社員時代と同じように積極的に意見したら、『上から目線だ』と煙たがられてしまった。参加するのも億劫になって完全に引きこもり状態です」(75歳男性)
※週刊ポスト2016年10月28日号