車いすテニスの国枝慎吾選手は、シングルスで3大会連覇を目指したが、残念なことにメダルは獲得できなかった。だが、グランドスラムを5度も経験している世界の王者だ。だいたい、国枝選手のあのバックのストロークはプロでも打ち返せないような迫力がある。日本の選手がここまで強くなったのはとても誇らしい。
ぼくは30年ほど前、地元の蓼科で障害のある人たちと協力し合い、車いすテニスジャパンカップの開催を手伝ったことがある。当時世界ランキング1位と3位の選手をアメリカから招待したが、日本の選手の実力とは雲泥の差があった。
ランキング1位のデビッド・カーリー選手が「おれたちはアスリートなんだ」と言ったのをよく覚えている。いま思うと、国枝選手はまぎれもないアスリートで、障害者というとらえ方をしている人はほとんどいないだろう。30年という時間をかけて、障害をもつアスリートも、ぼくたちの意識も、育ってきたのだと思う。
パラリンピック大会は、人間はとてつもない力や多様性を秘めていることを、わかりやすい形で見せてくれている。
今回のリオ大会では、200以上の世界新記録が出た。日本は金メダル0個、銀メダル10個、銅メダル14個という結果になった。当初の金メダル10個の目標には、遠く及ばなかった。メダル数も、世界で16位だ。
選手はよく健闘したと思うが、2020年の東京大会に向けて、あえて厳しいことを言いたい。「感動ポルノ」に逆戻りさせないためにも、この4年間ですべきことがたくさんあると思う。
国も企業も地域もみんなで協力し合って、障害をもつ人が一人の個人として力を発揮できる社会をつくっていく。そのなかの一つがパラリンピックでメダルを獲ることだと思う。4年後が本当に楽しみだ。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。
※週刊ポスト2016年10月28日号