スポーツ

「感動ポルノ」批判を吹っ飛ばしたパラリンピック

 リオ五輪が終わった8月末、「感動ポルノ」という言葉が話題になり、広まった。チャリティ番組として知られる「24時間テレビ」(日本テレビ系)を放送中に「バリバラ」(NHKEテレ)が障害者と感動を結びつける方程式を検証する生放送をしたからだ。感動ポルノとはいったい何か、その後、開催されたパラリンピックを通して障害者スポーツはどうあるべきと感じたのかについて、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が振り返る。

 * * *
「障害者は、みなさんの感動の対象ではありません」

 コメディアンでジャーナリストの故ステラ・ヤングさんは、障害者を「感動ポルノ」にしてしまう風潮を批判した。

 骨形成不全症の小さな体で車いすに乗った彼女が、自らの体験をユーモアや皮肉たっぷりに語る映像がインターネットにアップされている。感動ポルノとは、障害者をモノ扱いし、感動のための道具にしている、という意味だ。

「障害者を特別な存在と思わないでほしい。私たちは悪でもないけれど、立派でもない」

 ドキリとする指摘である。

 8月末、感動ポルノをめぐって、ちょっとした論争があった。今年で39回目となった日本テレビ系の「24時間テレビ 愛は地球を救う」の裏に、「バリバラ」(NHK Eテレ)が「検証! 『障害者×感動』の方程式」という生放送をぶつけてきたのだ。出演者は、「笑いは地球を救う」と書かれた黄色いTシャツまで着ている。「愛は地球を救う」のパロディであることは言うまでもない。

 このバトルを知り、少しずつだが、新しい時代がやってきているような気がした。

 もちろん、「24時間テレビ」が多額の寄付を集め、車いすや福祉車両、難病患者支援、障害者スポーツ支援、地震災害への緊急支援などとして使われてきたことは大きな社会貢献だと思う。

 だが、そこに描かれる障害者像というのは、「障害という不幸を抱えながら、健気に、前向きに生きる人たち」というステレオタイプになりがちだ。

「バリバラ」は、それに異を唱えたいのだろう。脳性麻痺や多発性硬化症の当事者が「不幸な存在と勝手に思わないでほしい」とつっぱねた。障害があっても生き抜くことができたのはどうしてかという質問には、あっけらかんと「イケメンの先生と時間のおかげ」と、期待を裏切る答えをして笑わせる。

 ぼくたちは「障害者」という属性だけをみて、その人がどんな人間かみようとしていなかった。そのことを思い知らされる「バリバラ」の笑いは、ちょっぴり苦かった。それから1週間ほどして、リオ・パラリンピックが開幕した。連日、テレビの前で、夢中になった。「感動ポルノ」なんて、そこにはなかった。

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン