「『立花登』から数本は、時代劇は『大変』という印象しかありませんでした。支度は大変だし、セリフ回しも違うし、台本を理解するのも難しいですから。
でも、後々に分かったのは、時代劇は役者の世界で唯一、継承されるべきものだということです。役者には徒弟制度はないと思っていて、感性のある者だけが生き残れる、サバイバル的な世界です。でも、時代劇は違う。
先輩が後輩に教え、後輩がまたその後輩に教えていく。それは、役者だけじゃなくてスタッフも同じです。時代劇が無くなったら、その瞬間にその文化も消える。ゼロから新たに立ち上げるのは不可能です。脈々と続いていることに意義があるんです。
時代劇の大切さに気づいたのは、四十を過ぎてからでした。テレビからシリーズものが消え、衰退がささやかれるようになった時、継承しようと思ったんです。あまのじゃくですから。
僕らの世代が次の世代に残さなきゃいけないものがある。バトンを受け取る立場から渡す立場になった時、『お前ら、次の世代に渡してくれよ』という先輩たちの声が聞こえたような気がしたんですよ」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2016年11月4日号