では、完全分煙化の規制強化で先行する神奈川県の飲食業界は、売り上げの極端な減少が収まっているのか。「全国喫茶飲食生活衛生同業組合連合会」の副会長で、長年、神奈川の理事長も務めてきた八亀忠勝氏が話す。
「神奈川の条例ができて6年。20坪、30坪の小さな喫茶店で喫煙室をつくれない店の中には、完全禁煙にしてしまったところもありますが、やはり売り上げ的には決して満足していないと思います。
そもそも喫茶店は駅の周辺に多く、通勤の行き帰りに寄ってコーヒーとたばこで一息つくのを日課にしているお客さんもたくさんいます。そうした常連客を一度失ってしまえば、再び戻ってはきませんよ。
かといって、無理やり狭い喫煙室を設けたところで、『ちょっと待って、たばこ吸ってくるから』と席を立たなければならないような店のつくりなら、喫茶店での込み入った話も中断してしまう。われわれのような業態に禁煙もしくは完全分煙を強制するのは厳し過ぎます」
厚労省案は小規模飲食店の“切り捨て策”に等しいと語気を荒げる八亀氏だが、大手チェーン店も今回の案を容認するつもりはない。約800の大手飲食業者を束ねる「日本フードサービス協会」の業務部部長、石井滋氏が語る。
「チェーン店でもテナント出店していれば、建物の大家さんとの関係もあるので、すべての店舗で喫煙室設置の排気工事ができるとは限りません。
一律に法規制ができないなら、飲食店の店内はすべて禁煙にしてしまうのもひとつの手段であるかもしれませんが、喫煙者だって大事なお客様。たばこを吸える場を提供することも飲食業界の大事なサービスです。
すでに組合員の自主的な受動喫煙防止対策として、喫煙・禁煙の店、分煙している店、時間帯によって禁煙・分煙を定めている店などが増えています。われわれも喫煙環境をはっきり表示する店頭ステッカーを配り、啓蒙活動に努めてきました。
料理のメニューのように、お客様が店の喫煙環境を自由に選択できる仕組みづくり。国や行政にはそうした民間の取り組みこそサポートしていただきたいと思います」