こういった集団心理は、複数いることで罪の意識が軽減され、特に男の場合、「意気地なしと思われたくない」との思いが働くというのは、精神科医の片田珠美さんだ。
「川崎で起きた上村遼太くん殺害事件もそうでしたが、集団心理として“やめろ”というのはなかなか言えないんです。川崎の事件の加害者は学歴社会の中からドロップアウトしたような少年たちによるもので、“家庭環境が整っていないから”とか、“シングルマザーだったから”とか批判されましたが、傍目には恵まれた家庭で育ったように見える優秀な子供同士でもこういう事件は起きるというのが集団心理の恐ろしさです」
東大に通うある4年生男子は、「つまらないなって顔をしているとノリが悪くてダメなやつと思われて嫌だから頑張って楽しいふりをしなくちゃいけない」と言う。「なぜ?」と聞くと、こう続けた。
「だってせっかく東大入ったんだし、それだけで寄ってくる女の子もいるし、楽しみたい。っていうか、なにより周りに嫌われたくないでしょ。だいたい大人は“上辺だけの友達なんかいらない”ってもっともらしく言うけど、おれらにとっては、友達は多ければ多い方がいい。だって自分が認められてるってことじゃない?」
ツイッター、フェイスブック、インスタグラム…ここ数年の間、若者を中心に広がったSNS。そこではフォロワー、友達、いいねなどで、自分がどれだけの人から承認されているかが、はっきり数字として表示される。それは自分だけでなく、知人もそうでない人も含め、不特定多数の人からもわかるように。
さらにLINEがそういった承認欲求を高めている。大学入学式前に、LINEでどれだけ友達とつながれるかが勝負で、入学式ではまるで昔からの友人と再会するような光景が、そこらじゅうに広がっているという。
こういった大きな承認欲求は、最近の若者の傾向ではあるが、片田さんは「一流大学の学生においては顕著」と指摘する。
「特に東大などの日本トップクラスの大学生は、勉強ができるだけじゃなく、友達もたくさんいて、みんなに好かれている人気者と周囲から思われたい。そういった大学の学生は小中高時代、勉強ができることで、親や教師から認められてきました。少子化の影響もあって、子供がつまずくのを極力防ぎたいという親が増えており、目の前の石ころを親が先回りして拾ってきたから、挫折も失敗も経験したことがない。