ライフ

【法律相談】妻と始めた店が閉店 負債を半分負わせられるか

弁護士の見解は?

 俗に「金の切れ目が縁の切れ目」とはいうが、夫婦で開業したものの、店が立ち行かずに閉店し、妻から離婚を切り出された場合、彼女にも借金を背負わせることは出来るのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。

【相談】
 脱サラしてカフェを開業。しかし、結局は700万円の借金を残して閉店。最悪なのは閉店後すぐに妻が離婚届を持ってきたこと。考えてみれば、妻の後押しもあり開業し、自身も働いていたのですから、閉店の責任と負債の半分は彼女が担うべきだと思います。元妻に負債の半額を請求するのは難しいですか。

【回答】
 離婚に伴う財産分与は、夫婦で築き上げた財産の清算、将来の生活の支援、慰謝料の3つの要素があります。

 また、過去の婚姻費用の清算が考慮されることもあります。いずれにせよ、わける財産があることが前提となっています。逆に債務は、日常の家事に属する取引で生じた債務以外は債務を負担した人(債務名義人)の責任であり、他方配偶者には責任がない上、債権者にも債務負担者の変更を強制できないので、原則として分与の対象になりません。しかし、分与財産中に住宅ローンで購入した自宅などがあれば、自宅自体は財産分与の対象になります。

 その場合、離婚時に住宅ローンの残高があるときは、自宅を単純にわけると住宅ローンの借入名義人になった方が損をして不公平ですから、時価からローン残高を控除した残りの額を基準に考えるのが普通です。

 そして、時価よりローン残高が大きい、いわゆるオーバーローンの場合は、自宅の価値を0とし、評価なしとして分与から除外したり、マイナス計算して他のプラス財産と調整したり、あるいは住み続けるメリットを考慮して判断されたりします。

 お尋ねのように、まったくわける財産がなく、借金だけというのでは分与すべき財産がないので、財産分与という処理が可能であるか疑問です。ただし、有力な学説では、公平な処理を必要とする事情があれば、債務の負担割合を定め、債務名義人への金銭の支払いを他方配偶者に命じることが、一種の過去の婚姻費用の清算的な処理として可能としています。

 私は、夫婦二人の共同事業の結果、残った債務ですから、民法の組合に準じ、損益分配割合の定めがなければ、平等に負担するよう求めることができると思います。元妻に支払い能力があるようなら、弁護士に相談してください。

【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。

※週刊ポスト2016年11月11日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン