顔の表情は、自分の意思により、表情筋を動かすことで作られる。ところが、意思とは関係なく、顔の片側だけピクピク痙攣したり、瞼や頬が引きつったりといった症状が出るのが片側顔面痙攣だ。最初は片方の瞼がピクピク動く程度だが、進行すると痙攣の頻度が増え、口元まで痙攣や引きつりが起こり、片目が開けられない、顔が引きつる、ゆがむといった症状になる。
これは、脳幹から出ている顔面神経が動脈に圧迫され、異常な信号を出して筋肉を勝手に動かすために起こる。まれに脳動脈瘤や腫瘍などが神経を圧迫することで起こることもある。NTT東日本関東病院脳神経外科の木村俊運主任医長に話を聞いた。
「片側顔面痙攣は、命にかかわるものではありませんが、人と会いにくいなど精神的な負担が大きい病気です。40代以上での発症率が高く、また、高血圧や脂質異常の方に発症が多いので、動脈硬化も誘因の1つと考えられています」
治療は大きく分けて3つだが、日常生活にどの程度影響があるかにより、医師と相談の上選択する。生活で困らなければ治療しないこともある。
1つめは抗てんかん剤(抗痙攣剤)などで症状を緩和させる薬物治療だ。ただ、完全に痙攣を取り除くことは難しく、また、眠気や吐き気などの副作用が出ることもある。
比較的多く行なわれるのが2つめの痙攣している筋肉にA型ボツリヌス毒素製剤を注射するボトックス療法だ。ボトックスが筋肉の収縮に関与する神経伝達物質アセチルコリンの放出を抑制し、筋肉の収縮を解放する。外来でも短時間で治療できるが、薬の効果が切れると元に戻り、その上、複数回実施するうちに有効期間が短くなる。
そして、3つめは神経を圧迫している血管を移動させる外科手術、顕微鏡下で行なう微小血管神経減圧術だ。
「頭蓋骨の耳の奥あたりに脳幹と小脳が収まっており、脳幹から顔面神経が出ています。後ろから見ると顔面神経は、そろばんの球を半分に切ったような形の小脳の下から見上げるような位置にあります。手術は頭蓋骨の一番下のところに孔(あな)を開け、下から神経をのぞき込む形で行ないます」(木村主任医長)
耳の後ろの髪の生え際あたりを目立たないように切り、頭蓋骨に親指の頭ほどの孔を開ける。顔面神経を確認し、圧迫している血管を丁寧にはがす。血管が神経にあたらないように向きを変え、移動させた血管が元に戻らないようにテフロン素材の小さな“こより”で血管の周りを固定し、終了する。このとき顔面神経のすぐそばに聴神経があるため、手術中は傷つけないように聴覚を確認しながら行なう。
手術は全身麻酔で行ない、抜糸まで約10日間の入院が必要だ。治癒率は92~95%と高く、手術直後から痙攣が取れることが多い。ただし、症状消失までに、しばらく時間がかかるケースもある。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2016年11月11日号