「同じマンションの下層階にオシャレなレストランや喫茶店などが入り、上層階に居住者がいる場合、店の業態やフロア別に禁煙・喫煙を分けるのは本来おかしな話です。建物は一軒家であろうがマンション・ビルであろうが所有者と入居者の私有財産である以上、国からあれこれ規制される筋合いはありません。
すべて“健康のため”といえば誰も反対できないと考えているのでしょう。しかし、個人の嗜好や文化を否定してまで、目くじらを立てて『こうあらねばならない』という社会をつくっていくのは非常に危険なことです。
日本の分煙マナーは以前に比べて格段によくなっていますし、なぜ、これまでのような自主的な取り組みではいけないのでしょうか。受動喫煙の問題は挙げ出したらキリがありません。規制強化の波をこのまま放置していたら公権力はいずれ家庭の中にまで入り込み、不自由な生活を強いられかねません」
今回のヒアリングでは、建物内禁煙より厳しい「敷地内禁煙」の徹底を示された医療関係の2団体(四病院団体協議会・日本ホスピス緩和ケア協会)でさえ、厚労省に柔軟な対応を求める陳述を行った。
喫煙による健康被害とは無関係な患者やホスピスに入る余命少ない患者、その他、家族、病院スタッフ等が建物外の、それも隔離された場所であってもたばこが吸えないのはいかがなものかという主張である。
厚労省にしてみたら、「例外」をすべて認めてしまえば規制強化の効力がなくなる。だが、元をただせば国や自治体がバラバラに屋内・屋外の喫煙ルールを定め、施設もそれぞれの状況に応じて分煙対策を敷いてきたことで、もはや一律に規制することが難しくなっている。
塩崎厚労大臣は11月18日に行われた会見で、関係団体から反対の声が相次いだ今回のヒアリングについて、こう言及した。
〈東京オリンピック・パラリンピック、その前年のラグビーワールドカップまでに、スモークフリーの社会を作るということをしっかりと実現しなければならないと思いますので、御理解していただけるようにさらに努力していきたい〉
そして、記者から〈「御理解いただく」というのは、要望には応えず、決まったもので「御理解いただく」ということか〉と問われると、
〈どの国でも、一部そういう御意見があったと聞いております。世界共通の御意見があるのでしょうが、それと同時に世界共通である、受動喫煙を禁止するということをきっちり罰則付きでやっていくということであります〉
と言い切った。各業界や施設管理者が自助努力で受動喫煙防止対策に取り組んできたことで、すでに一定の成果は上がっている。こうして築き上げた“日本型の分煙社会”を罰則つきの新たな法律で縛ることに、どれだけの意味があるのか。現場の実態にそぐわない非現実的なルールづくりは、かえって混乱を招くばかりだろう。