イギリス型のスモークフリー(たばこのない)社会を目指す──。厚生労働省が健康増進の観点から、「建物内禁煙」を柱とする罰則つきの法制化を検討していることは当サイトでも報じたが、その必要性や実効性について疑問視する声が噴出している。
10月31日、11月16日の2日にわたり、厚労省健康局を中心に結成された「受動喫煙防止対策強化検討チームワーキンググループ」は、20を超える関係団体を集めて賛成か否かのヒアリングを行った。
だが、飲食業、ホテル、遊戯事業、鉄道、労働組合、教育機関、病院……など幅広い業界団体に割り当てられた発言時間は、わずか10分ずつ。しかも、厚労省が10月に突如ぶち上げた新案の「たたき台」の詳細説明もないまま開かれたうえ、団体からの質問には、「この場は意見をいただいて、これからチームで検討していく段階。質問にはお答えしようがない」(健康課長)とバッサリ。
あまりに一方的すぎる進行に、参加団体の関係者は、「一応“陳情”はさせるが、厚労省は初めから結論ありきで、われわれ現場の声を具体策に反映させる気はまったくないのだろう」と怒りを露わにした。
今回のヒアリングで明らかになったのは、厚労省は四方を囲まれた屋内ならすべて禁煙の方針だということ。公共施設以外で認める「喫煙室」の設置は、既存の建物の利用特性や広さに関係なく義務付けを貫く構えにみえる。
たとえば、「小型の貨物船が8割を占め、喫煙室を新設するスペースがない」と訴えた日本船主協会に、「船外(デッキなど)に設置することは難しいのか」(健康課長)と逆質問。来店客へのアンケートをもとに、「喫煙しながらパチンコをしたい客が大半」だと主張した日本遊技関連事業協会には、「全面禁煙化の賛否ではなく喫煙室設置なら賛成する客も多いのではないか」と、暗に再調査を求める要望まで飛び出した。
また、「乗車時間が長い特急があるので、これまでは号車ごとに分煙を行なってきた」と説明した近畿日本鉄道には、「他の鉄道会社は長距離でも禁煙なのに、近鉄さんだけなぜできなかったのか」(同課長)と詰め寄るなど、個別企業の経営方針やサービスの形態に踏み込むような指摘が相次いだ。
厚労省のいう「建物」の概念とは何なのか──。そもそもこの疑問に的確に答えられなければ受動喫煙防止対策は先に進まない。たたき台にはこんな注釈がある。
〈個人の住宅や、多数の者が利用する施設内であってもその用途が個人の住宅と考えられる場所(ホテルの客室等)については、新たな制度の対象外とする〉
とはいえ、ホテルの客室は良くて旅客船や寝台列車の客室はダメとなれば理解に苦しむ。まして、本気で受動喫煙防止に取り組むなら、一般住宅もいずれ禁煙化の方向にするつもりなのだろうか。
ジャーナリストの大谷昭宏氏はこんな懸念を示す。