前号で、今回の大統領選挙は白人保守層が優勢な“内陸合衆国(United States of Inland)”と、様々な人種・民族で構成されているリベラルな“沿岸合衆国(United States of Coastal)”の対決だったと書いた。USA(United States of America)ではなくDSA(Divided States of America)になったわけだが、実はすでに勝負はついている。
“沿岸合衆国”の人々は、トランプ勝利でもケロッとしていると思う。彼らは世界中から優秀な人材を呼び込み、ICTや金融、通信などの分野で世界最強のビジネスを作っているので、誰が大統領になってもほとんど影響を受けないからである。トランプ氏が公約を実行した場合に悪性インフレで返り血を浴びるのは、競争力のない“内陸合衆国”の人々なのである。
かつて私は、「紙で投票する選挙は国内優先、財布で投票する選挙はグローバル化優先になる」と書いたが、実体経済はグローバル化の方向に一方的に進むしかなく、その流れを止められた政治家はいない。
トランプ氏はFRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長を任期途中で交代させる意向も表明している。いま為替は円安ドル高が進んでいるが、トランプ氏は「ドル高は市場と貿易に悪影響を及ぼし、金利の上昇はアメリカの利払い費用が増大する」と言っている。
実際はドル高で生活資材が安くなり、ドル安では高くなる。イエレン議長更迭となれば利上げは難しくなって円高ドル安に向かうため、インフレを誘発してアメリカ国民の生活は苦しくなるだろう。一方、日本企業は1ドル=70円台になっても生き残ってきたのだから、どうってことはない。トランプ大統領が迷走する間、日本は反グローバリズムの波に流されずに従来通り、ひたすら競争力を磨き続ければよいだけなのだ。
※週刊ポスト2016年12月9日号