国内

「墓は私を苦しめてきた」と語る男性の「墓じまい」まで

抱えるお墓事情はさまざま

 今さらだが、お墓って何だ。『大辞泉』には「遺体・遺骨を埋葬した場所。また、そこに記念のために建てられた建造物。塚」とある。

 人が亡くなると、法律的に「しなければならない」のは、役所に死亡届を提出して火葬許可証を受け取り、火葬することだけだ。火葬終了後に交付される埋葬許可証を墓地の管理者に提出すると、遺骨を埋葬できる。必ず埋葬しなければならないわけではなく、仮に家で遺骨を延々保管していても法に触れない。しかし「家」単位のお墓に入れる習わしが続いてきた。

「家墓(いえはか)」という言葉がある。旧民法では長男が一族を統率する「戸主」の身分を継いだため、一家のお墓も継承した。その名残りなのである。新民法で「戸主」はなくなり、きょうだい全員が平等になったが、お墓は今も長男が継ぐのが一般的だ。

「お墓は、私を苦しめてきた“家制度”そのものだったんです」

 ふりしぼるようにそう言ったのは、都内に住む会社員の佐藤純一さん(41才、仮名)だ。11月に岩手県内の実家のお墓に“最後のお墓参り”をし、墓じまいをしたばかりで、今「改葬」の真っ只中にいる。年末に、佐藤さんが信仰する宗派の永代供養墓に納骨する。

 改葬とは遺骨を移動させること、墓じまいとは元のお墓を閉じて解体処分し、区画を管理者に返すこと。墓じまいは改葬の1ステップだが、遺骨を墓石を建てない形態のところ(納骨堂、合葬墓、散骨など)に移動させるケースが多く、佐藤さんの場合もそうだ。

 佐藤さんは岩手県に生まれ育ち、姉と弟のいる長男。父は勤務医だった。母が、同居の祖母に「佐藤家の家風に従いなさい」ときつく当たられているのが、子供心につらかった。もっとも佐藤さんの実家ばかりでなく、「家風」を重んじる家は少なくないだろうが、とりわけ東北地方はその度合が強いのだという。佐藤さん自身も、事あるごとに「長男だから」「跡継ぎだから」と言われ、「窮屈でしかたなかった」と話す。大学進学で地元を離れた。

 20才の時に母が病気で亡くなった。母の妹たちが「お姉ちゃんは佐藤家に殺されたようなもの」とつぶやいたことを覚えている。

 佐藤家には、岩手県内の霊園に父が1960年代に建てた立派なお墓があった。菩提寺は禅宗。お墓に入っていたのは曽祖父と祖父母、母だ。この夏、父が亡くなり、佐藤さんはそのお墓をたたむことを選んだのだ。

「つまり、佐藤家の“店じまい”です」

 長く準備した上での決断だという。

 なんと、佐藤さんは4年前に得度したそうだ。妻との不仲など「しんどいこと」が折り重なり「全てを赦ゆるさなければ(ありのままを認めなければ)」の心境からの得度だったが、「菩提寺との縁切り」「佐藤家の“店じまい”」も、うっすらと心の奥底にあり、これが墓じまいへの助走となった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

24時間テレビの司会を務めた水卜麻美アナ
《水卜アナ謝罪の『24時間テレビ』寄付金着服事件》「まだ普通に話せる状況ではない」実母が語った在宅起訴された元局長の現在
NEWSポストセブン
女子ゴルフ界をざわつかせる不倫問題(写真:イメージマート)
“トリプルボギー不倫”で揺れる女子ゴルフ界で新たな不倫騒動 若手女子プロがプロアマで知り合った男性と不倫、損害賠償を支払わずトラブルに 「主催者推薦」でのツアー出場を問題視する声も
週刊ポスト
本格的な活動再開の動きをみせる後藤久美子
後藤久美子、本格的な活動再開の動き プロボクサーを目指す次男とともに“日本を拠点”のプラン浮上 「国民的美少女コンテスト」復活で審査員を務める可能性も 
女性セブン
主砲・岡本和真の起用法が二転三転していることは気懸かり
開幕直前の阿部巨人に衝撃「丸の長期離脱」で主砲に及ぶ余波 広澤克実氏は「岡本まで不調ならジャイアンツのBクラスもあり得る」
週刊ポスト
すき家の「クチコミ」が騒動に(時事通信、提供元はゼンショーホールディングス)
【“ネズミ味噌汁”問題】すき家が「2か月間公表しなかった理由」を正式回答 クルーは「“混入”ニュースで初めて知った」
NEWSポストセブン
スシローから広告がされていた鶴瓶
《笑福亭鶴瓶の収まらぬ静かな怒り》スシローからCM契約の延長打診も“更新拒否” 中居正広氏のBBQパーティー余波で広告削除の経緯
NEWSポストセブン
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・HPより 写真はいずれも当該の店舗、スタッフではありません)
《丸ごとネズミ混入》「すき家」公式声明に現役クルーが違和感を覚えた点とは 広報部は「鍋に混入した可能性は著しく低い」と回答
NEWSポストセブン
西武・源田壮亮の不倫騒動から3カ月(左・時事通信フォト、右・Instagramより)
《西武・源田壮亮の不倫騒動から3カ月の現在》元乃木坂の衛藤美彩、SNSの更新はストップのまま…婚姻関係継続で貫く「妻の意地」
NEWSポストセブン
今年9月の19才の誕生日には成年式が予定されている悠仁さま(2025年3月、東京・文京区。撮影/JMPA) 
悠仁さま、卒業式後はクラスメートと2時間以上の名残惜しい“お別れタイム” 宮内庁発表の「卒業文書」に詰め込まれた“こだわり” 
女性セブン
亡くなる前日、救急車がマンションに……
《遺骨やお墓の場所もわからない…》萩原健一さん七回忌に実兄は「写真に手をあわせるだけです」明かした“弟との最期の会話”
NEWSポストセブン
試合後はチームメートの元を離れ、別行動をとっていた大谷翔平(写真/アフロ)
【大谷翔平、凱旋帰国の一部始終】チーム拠点の高級ホテルではなく“東京の隠れ家”タワマンに滞在 両親との水入らずの時間を過ごしたか 
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 山本太郎が吠えた!「野党まで財務省のポチだ」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 山本太郎が吠えた!「野党まで財務省のポチだ」ほか
NEWSポストセブン