まだ元気だった父に得度したと伝えると、「じゃあオレの葬式はお前にやってもらおうか。あの坊主、気に入らないしな」。母の戒名は100万円。父にとっても菩提寺は「金をふんだくられるだけ」の関係。
親戚に「得度したので、いずれ父の見送りは私がやります」と話し、姉と弟にも伝え、特段の反対はなかった。
入院中の父が「そろそろ危ない」となった今年7月、佐藤さんは菩提寺に赴き、住職に父の状況と自分たちきょうだいが3人とも東京住まいであることを説明した上、切り出した。
「実は私は僧侶資格を持っています。代々のお墓も含め、私が弔っていきたいと思います。父が亡くなっても、私が父の菩提を弔わせていただきます。檀家から抜けさせてください」
60代の住職は、口角を下げた。
「あのねえ、佐藤さん。個人がキリスト教だろうがイスラム教だろうが、家の墓は関係ないの。東京に行ってもアメリカに行っても関係ないの。みなさんにそう話すの」
噛んで含むように言った後、こう続けた。
「だけれども、あなたが僧侶になったのなら、そうは言えない。文句は言いません」
佐藤さんは心の中で小躍りした。しかも、150万円くらいかもと覚悟していた離檀料は「7万円」と住職の方から言った。すんなりと改葬に必要な書類を出してくれたという。
父の葬式は、佐藤さんが得度した宗派の僧侶に来てもらって営んだ。そして近親者10人が花や菓子など供物を持って集まり、墓じまいを決行したのだ。抜魂供養の読経は「最後だから」と元の菩提寺に、遺骨の取り出しやお墓の解体など一連の改葬作業はネットで探した株式会社「まごころ価格ドットコム」(東京都中央区)に頼んだ。
「姉と弟は、私が決めたとおりでいいと、お墓にまったくと言っていいほどこだわりがなかったのが肩すかしでした。最後のお墓参り、抜魂供養は滞りなく営まれましたが、叔母が『このお墓が建った時、お母さん(佐藤さんの祖母)が喜んでいたね』とちくりと言った」