「温泉観光ホテル」と聞くと、昔からある巨大な有名施設を連想する人は多いだろう──。確かにバブル期にはたくさんの団体客で賑わった老舗ホテルだが、その後、不景気による稼働率低迷やサービスの陳腐化などで廃業に追い込まれる施設もあった。
そして今、温泉ホテルは徹底的に追求したコストパフォーマンスを武器に、生き残りどころか再ブームともいうべき人気を博している。ホテル評論家の瀧澤信秋氏が温泉ホテルチェーンの最新事情をレポートする。
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高速道路を走っているとよく見かけるバスがある。ブルーのラインが入ったバスで「湯けむり号」と記されている。鬼怒川や日光、草津や熱川など関東で展開されている「おおるりグループ」の送迎バスだ。都心をはじめ埼玉県、神奈川県の主要駅からの運賃が往復で1000円台とお得だが、施設本体の料金も低廉な設定だ。
1泊2食に夕食時の飲み放題も付いてなんと6000円以下、しかも繁閑にかかわらず基本的に料金変動しないというから驚きのひとこと。もちろんこの料金設定なので豪華で贅沢というわけではないが、安さ重視の温泉旅を楽しみたいファミリーやグループに人気だ。
料金変動なしの均一料金チェーンといえば「伊東園ホテルズ」も有名。1泊2食に飲み放題がついて7800円が基本。グルメプランなども展開し、内容重視で充実のステイを提案する。
このような格安温泉施設に見られる傾向は、バブルの頃に栄華を誇った“温泉観光ホテル”ともいうべき施設のリブランドだ。
バブル期、温泉旅館といえば高嶺の花であった。社員旅行などの団体客をターゲットに宴会場やカラオケスナック、遊戯場といった様々な施設を有する規模の大きさ自慢も多かった。バブル崩壊後は団体客が減少、個人客相手では商売にならず運営が困難に。廃業も相次いだ。
そこで、高値の華だった温泉旅行をリーズナブルに提供しようと、温泉ホテルや旅館は低価格路線を追求し始めた。その先駆けといえるのが「一の湯グループ」だ。都心からも近い温泉リゾートとして知られる箱根。その高級なイメージの強い箱根をドミナントエリアとして8店舗展開する。
1630年創業の現存する老舗旅館が旗艦施設。バブル期にはご多分に漏れず高価格路線であったが、現代表の小川晴也氏は利用者のニーズを徹底研究、低価格路線に舵を切った。1泊2食ひとり1万円前半程度でリザーブできる“客室露天風呂付き”の客室を多く設けるなどバリューも重視、独自のコンセプトで驚異的な稼働率を誇る。