増田さんはSU薬の他にも、降圧剤や胃腸薬など、年を取るごとに薬の数が増えていったが、「そのたびに安心感が増していった。多くの薬を飲むことが体に悪いとは思いもしなかった」と言うのだ。糖尿病治療に詳しい高雄病院理事長の江部康二氏が解説する。
「多量の薬を長年服用し続けることは、特定の副作用を誘発させるケースがあります。SU薬は膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促す作用がありますが、一方で血糖値を下げ過ぎる副作用もある。低血糖による意識障害などから転倒事故を起こして骨折し、そのまま寝たきりになってしまう高齢者も少なくありません」
同じく糖尿病薬のビグアナイド薬も、高齢者にはリスクが高いとされる。この薬は肝臓で乳酸からブドウ糖が生成されるのを抑える作用があり、最終的に腎臓で分解される。江部氏が続ける。
「人間は60歳を過ぎると徐々に腎機能が低下します。腎機能が衰えた高齢者がビグアナイドを服用すると、薬が分解されにくくなるため血中の乳酸値が増加し、乳酸アシドーシスを発症しやすくなる。乳酸アシドーシスとは血液が大きく酸性に傾いた状態をいいますが、その状態になると嘔吐や下痢などの初期症状に始まり、放置すると昏睡状態に陥る致死率50%の疾患です」
※週刊ポスト2016年12月16日号