●タワーマンション増税「甘い言葉で釣って、後出しジャンケン増税」
都心の高層マンションの好調な売れ行きを支えているのが「タワマン節税」だ。現金などの金融資産を持っているよりも、マンションなどの不動産に変えておいたほうが、相続税の評価額は下がる。ここに注目し、取引価格の高い高層マンションの高層階の物件を購入し、子供に相続させて節税するという手法だ。
東京五輪をにらんで東京都心の中古マンションの相場は上昇しており、資産価値が上がって節税もできるとあって高層マンションが売れに売れ、不動産市況は好転した。
財務省はそこに触手を伸ばした。今回の税制改正でタワーマンションの高層階の固定資産税や相続税の税率を引き上げ、“冷や水”をぶっかけようとしている。
「税金安いよ」と見せかけ、買った途端に増税というアコギな手法だ。“一生に一度の大きな買い物”と意気込んで買った人は、簡単に引っ越すわけにもいかない。浦野氏が語る。
「節税潰しを理由に高層階の税率を引き上げれば、自分の居住用に購入した人まで増税で負担が重くなる。投資目的の部屋と、収益の低い居住用の住宅の税制は別に考えるべきなのに、これも理屈に合わない」
●ビール類増税「売れている酒は増税してしまえ」
「日本のビールの国際競争力低下を招いている。税率を公平にして競争力を高める」
財務省がそんな理屈を振りかざしているのがビール類増税だ。戦前からビールには戦費調達のために高い税率がかけられてきた。
だから一般大衆は税率が低い発泡酒などが発売されるとそっちに走ったが、増税官僚たちは「多く飲まれる酒に重税を」という発想で、今回の税制改正でビール、発泡酒、第三のビールの税率を1缶(350ml)あたり55円程度に一本化する方針を固めた。第三のビールの場合、1缶27円の値上げ(増税)になる。「民間税制調査会」共同代表の三木義一・青山学院大学学長(租税法)が語る。
「そもそも日本のビール税率はアルコール度数に対して高過ぎる。だから、業界はビールの高税率が適用されない発泡酒や第三のビールを開発せざるを得なかった。
財務省は歪んだ税制を敷き、業界に他国なら必要ない無駄な努力をさせ、国民にビールまがいの酒を飲ませてきた。それをいまさら『国際競争力の低下を招いている』といわれたら業界も国民も怒りますよ」
その通りだろう。しかも、財務省は税率一本化について「酒税全体の税収は変わらない」と説明しているが、その先の狙いは増税だ。
「発泡酒の登場前、年間2兆円あった酒税の税収は、いまや1.3兆円まで減った。発泡酒などの“脱法商品”が開発されたからだ。本当なら全部ビール並みの税率にしたいが、いきなりやると批判が強まる。そこでまず税率を税収中立の55円に一本化して酒税法の抜け道をなくした上で、いずれ現在のビール税率(77円)まで引き上げる」(財務省関係者)
これでは国民に“車を買うな”“マンション買うな”“ビールも飲むな”というに等しい。
※週刊ポスト2016年12月16日号