ライフ

今が旬なのにヒラメやブリの提供を中止する是非

旬のヒラメだが(写真:アフロ)

 最近、旬のヒラメやブリの取扱いを止めるチェーン飲食店があるという。そこにはいびつなリスク社会があった。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が語る。

 * * *
 寒さが増す12月には、さまざまな魚介が旬を迎える。ヒラメ、ブリ、フグなどの高級魚にカキなどの貝類、カニに代表される甲殻類もそうだ。ところが最近、とある寿司チェーンの社員から「うち、ヒラメを扱わなくなったんですよ」という話を聞いた。旬なのに。うまいのに!

 聞けばここ最近明らかになってきた、クドアというヒラメなどを宿主とする寄生虫に対するリスク管理だという。もっともクドアはヒラメには寄生するものの、人間には寄生しない。一過性の嘔吐や下痢が起きた事例が報告されている程度。症状は軽度で、ほとんどのケースで発症後24時間以内に回復し、後遺症もないと報告されている。にもかかわらず、このチェーンではヒラメの提供を中止したという。

 また個人経営の飲食店の店主からは「ブリの扱いやめようかと思って」という話もあった。聞けば、天然のブリやハマチの血合い近くに寄生するブリ糸状虫という線虫に、客からクレームがついたという。ちなみにこちらは人間にはまったく害がない。「気分がよくないというのはわかるから、気づけば取り除くけど、100%外すのは無理だろうからなあ」と肩を落としていた。

 もっとも供給者がリスクを避ける気持ちもわからなくはない。この数年、「リスクゼロ」を求める、ゆとり消費者が存在感を増しているからだ。”モンスター”との異名をとる、「安全当たり前世代」は、目の前にあるものが何かを知りもしなければ確かめもせずに、手を出してしまう。本来そこにあるリスクを引き受ける覚悟がないのなら、手を出してはならない。

 日本人の就業者数を見てみると、約100年前の就業者数の構成は、第一次産業従事者が53.8%、第二次産業が20.25%、第三次産業23.7%(大正9年国勢調査)と圧倒的に第一次産業に携わる日本人が多かった。一方、2005年の国勢調査では、第一次産業は100年前の十分の一に。対して第二次産業25.9%と増え、第三次産業に至っては67.3%、実に国民全体の2/3が第三次産業に従事していることになる。

 当然ながら意識は変わる。昭和一桁うまれの僕の両親は「残したら、お百姓さんに申し訳ない」「お天道さまからバチがあたる」「もったいない」というようなことを口ぐせのように言葉にしていた。いま、そうした話はほとんど聞くことがない。

 全国民の約半分が第一次産業に携わっていた当時は生産と消費の現場は近かった。だが現代では、生産と消費の現場の距離は遠くなってしまった。「食」にまつわるリスクは自らとは関係ない生産者や流通に押しつけ、消費者としての選択責任は全力で回避する。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン