ここで、展示を見終えたばかりの男性来場者が話に割って入ってきた。

「あんた日本人か! 日本人は慰安婦の歴史を知っているのか? この展示と同じぐらい知っているのか?」

 かなり頭に血が上っているようだ。日本人も多かれ少なかれ知っていると答えると、男性は主張を続けた。

「日本人も(ベルリンにホロコースト記念碑を作った)ドイツ人と同じように、慰安婦の記念碑を東京に作るべきだよ。それも記念碑を作ったら終わりじゃなくて、謝罪の気持ちを日本人全体が持ち続けなくちゃいけないんだ!」

 男性の話に、女性スタッフが大きく頷いている。スタッフを相手に質問を続けた。

──歴史を直視せよというなら、中国政府も天安門事件記念館とか作ったらいいんじゃないですか?

「天安門事件についてはよく知らないけど、あれは政府転覆を狙った犯罪者に対して正当な措置を取っただけ。慰安婦のような非人道的行為とは違いますよ」

 中国政府の大本営発表を、鵜呑みにしているようだ。この国で生まれ育ったら、高学歴エリートですらそういう思考回路になってしまうのか。

 東京基督教大学の西岡力教授ら日本側の研究者が設立した「中国人慰安婦問題研究会」の調査結果によれば、名乗り出ている中国人元慰安婦の大部分は、「慰安婦」ではなく「戦時性暴力(強姦)被害者」だったという。

 また、中国人慰安婦の強制連行は証明されておらず、中国人慰安婦20万人という数字もでたらめな計算だと批判している。

 しかし、上海の慰安婦像と博物館の様子を取材すると、ここを拠点に、日本の見解とは相反する歴史観が拡大していくのではないかと思われた。新たな歴史戦の火種となりそうだ。

※SAPIO2017年1月号

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