それでも、僕は現実の一歩先のネタを作ろうと、今も月に10日ほど高座に出ている。師匠から「腐らない新作を作れ」と教えられたし、90歳になったからと休んでいる場合じゃないから。若い者のために出番を減らそうとも思いますが、こう見えても落語家だから、ネタができるとみんなの前で話したくなってしまう。まったく因果な商売です。
ただね、最近はわかりきっているはずのことが言葉として出てこない。高座でも自然にど忘れして、「……あれですよ、あれ」とやっちゃう。新作落語の登場人物が「佐藤さん」だったのに、話の最中になんだかよくわからなくなって、「斎藤さん」に変わっちゃうこともある。お客さんは途中で気がついてバカ受け。90歳のジジイだからしかたないんでしょうが、なんか複雑な気持ちだね(苦笑)。
長生きも難しいよ。周りは“いい加減にしてくれ”と思っているかもしれない。10年前は90を超えたら大事にされたけど、人数が多くなると扱いが雑になるんじゃないか心配だねぇ(笑い)。
春になるともう92歳だけど、いつまで高座に出ようか……。高座の最高年齢記録に挑戦しているわけではないけど、見ていて痛々しいとか見苦しいのは嫌。出ている時だけは“格好をつけて”落語をやりたい。それができるうちはまだ高座に上がりたいね。
●かつら・よねまる/神奈川県横浜市生まれ。東京都立化学工専卒業。1946年に5代目古今亭今輔に入門、1949年に真打昇進。1998年に勲四等旭日小綬章を受章。落語芸術協会最高顧問。出囃子は『金比羅舟々』。
※週刊ポスト2017年1月1・6日号