「新人会も最初は裏方で入りました。でも人が足りないということで役者もやらされて。そのまま運よく仕事が来ました。仕事に引きずられて役者にさせていただいたという気がします。
宇野重吉さんの演出は思い出深い。駄目だしがきつくて、男でも泣き出す役者もいました。でも僕には具体的に何も言ってくれません。公演の終了まで「これでいいのか」と考え続けてやっていました。
でも、演技ってそういうものなんですよね。『こうだからこうだ』という理屈じゃなくて、相手役とその情景をどう語るかという感覚の問題でしょう。相手役との間で感覚を測りながらやっていく。
でも、今はそういう作り方ではなくなってしまいました。先に形があって、相手と絡まなくても成り立ってしまう。自己主張のあるキャラクター同士が勝手なことをやっていて、そのキャラクターだけが存在している。
物語の中でこの人がこう変わっていくという面白さがなくて、筋ばっかり追っている。それではコマーシャルと同じです。
想念と想念が勝手に行き違っている。そうじゃなくて、ぶつかり合っているものが一つになって、そこに世界ができて、その中に苦悩や反発があり、その先に安住がある。今は先に反発あり、和合ありという結果が決まっているから、みんなパターンで芝居してしまっています」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年1月1・6日号