1974年西ドイツ大会、1978年アルゼンチン大会と1回100万円を自腹で用意して取材すると、3回目から会社が費用を出すようになりました。でも4年に1度、大金を使ったからか、私は長く結婚できなかった(苦笑)。サッカー界を盛り上げるには、そこから始めるしかありませんでした。

 以降、2014年のブラジル大会まで10大会連続でワールドカップを取材し、現役最年長記者として2015年1月に国際サッカー連盟(FIFA)から表彰されました。“お前、よぅ頑張ったなあ”と褒めてくれる先輩が誰もいなくなったことがやはり寂しかったですね。

 今は昔と比べて、日本でもサッカーが不動の人気になって選手の技術も向上し、日本代表も順調に強化しています。自分の功績とは思いませんが、サッカーがここまで日本に根づいたことは私の密かなプライドです。

 実は私は、終戦前の1945年4月に陸軍の特攻隊第413飛行隊員になりました。本土決戦に備え、朝鮮半島に渡って2枚翼の練習機で突っ込む訓練をして、出撃する直前に玉音放送が流れました。

 終戦後、現地の小学校の校舎で待機していたある雨の日、近所の子供とボールを蹴りました。“日本に帰れば、またサッカーできるんだ”と嬉しかったことを覚えています。

 戦争から生きて帰ってきた時、70歳まで生きると思っていませんでした。こんなに長生きして、周囲に迷惑をかけていないか、少し心配ですが、90歳になっても、書く意欲やスポーツへの興味はまだまだ衰えません。サッカーの技術論も世に出したいし、書きたい人物も残っています。

 神戸賀川サッカー文庫に顔を出す回数も増やしたい。もちろん、この先もサッカーの取材でスタジアムを訪れるつもりです。

●かがわ・ひろし/兵庫県神戸市生まれ。神戸経済大卒業。サンケイスポーツ大阪編集局長を経験。2010年に日本サッカー協会より日本サッカー殿堂特別表彰。2015年にFIFA会長賞受賞。自身のサッカー関連蔵書を「神戸賀川サッカー文庫」として公開している。

※週刊ポスト2017年1月1・6日号

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