当然ながら、そのリスクも指摘されている。本来、中央銀行に国債を大量に買わせるとインフレ、国債暴落、通貨安という副作用が起きて、国民生活に大ダメージを与えるとされてきた。ところが、日本には“特殊な状況”が生まれているというのだ。

「現在の日本経済は日銀が物価を上げたくても上がらない、国債はゼロ金利だから多少金利がついた方がいい、為替ももう一段の円安が望ましい。副作用が起きても全部プラスに働く。こんな国は日本だけで、世界でも日本だけが使える魔法なのです」(森永氏)

 国の資産を管理する財務省理財局の資金企画室長などを歴任した嘉悦大学教授の高橋洋一氏もこういう。

「私が初めて国のバランスシートをつくった当時と一番違っているのはそこです。日銀の国債大量買い入れによって統合政府のバランスシートでみると日本の借金は大きく減り、財政再建は終わったと考えていい。

 20年前、私が米国プリンストン大学に留学中にバーナンキ教授(前FRB議長)が、『中央銀行が量的緩和してもインフレにならなければ財政再建ができるね』といったことがある。それがまさに20年後の日本で現実になった」

 一方で、財務省は“まだ日本は借金大国で増税が必要だ”としきりに繰り返している。しかし、いまこの国に必要なのは、増税ではなく、経済成長でもっと国の税収を豊かにし、将来の年金問題を解決することだろう。

 たしかに専門家の中には、たとえ今インフレが起きていなくても中央銀行の国債大量買い入れがいきなりハイパーインフレを引き起こすリスクがあると指摘する声も多い。手放しで現状に安心はできないだろう。

 ただ、国が借金をする裏付けに徴税力という“資産”が使えるのは、国民が経済成長を支え、納税の義務を果たしているからだ。増税はその経済成長に冷や水を浴びせる。「借金が多いから増税」という財務省のロジックが乱暴であることも、国のバランスシートから浮かび上がってくる。

※週刊ポスト2017年1月13・20日号

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