しかし対外的な状況は異なる。アメリカの国際的な役割の縮小は否定できない。この状態は私がかねて唱えてきた「Gゼロの世界」に近い。GゼロとはG2とかG7というように世界を主導する特定の国家あるいは国家群がもう存在しない状況を指す。

 だが国連のような国際機関の力が強くなるわけでもない。アメリカは元来、多国機関は自国にとって負担であり、不必要な責任だとみなしてきた。トランプ政権はとくにその傾向が強い。新政権の国務副長官への任命が推測されるジョン・ボルトン氏は過去60年間でも他の誰よりも国連の機能を削り落としてきた人物なのだ。だからアメリカの新政権は国連の予算を削り、協力に難色を示すだろう。

 だが中国が国連に関してより大きな役割を果たそうとすることを忘れてはならない。私の個人的な友人のアントニオ・グテーレス新国連事務総長(元ポルトガル首相)は最近、北京を訪問したが、中国側は彼を主要国の元首のようにもてなし、国連は世界でも最重要の多国機関だから中国はあらゆる支援を惜しまないと明言していた。

 だから中国は当面の間は今後の「Gゼロ」状況やトランプ政権の登場を自国のパワー拡大の好機とみるだろう。一方、国連の力は弱くなる。なにしろ国連にとってはアメリカの支援が非常に大きいのだ。

【PROFILE】1969年生まれ。スタンフォード大学にて博士号を取得。同大学のフーバー研究所研究員などを経て、98年に調査研究・コンサルティング会社「ユーラシア・グループ」を設立。2007年、ダボス会議の「ヤング・グローバル・リーダー」に選出。著書に『「Gゼロ」後の世界』などがある。

※SAPIO2017年2月号

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